第二百六十四章 噂の真相? 7.来訪者たち(その2)
――それは衝撃的な指摘であった。
アバンアクセサリーの作製者ではないかと疑われていたノンヒュームが、一転してそれらの購入者・蒐集者として浮上してきたのである。これはもう「コペルニクス的転回」と呼んでも差し支え無いのではなかろうか。
「いえ、厳密に言ってそうと決まった訳では……ノンヒュームの好みを忖度した者が、自分たちでも似たようなものを作ろうとしているとか、その手本として集めているとか……或いはもっと単純に、ただ気に入ったので集めているだけという可能性だって充分ありますし」
真相は……妻お気に入りのエッジ村風ドレスにアバンのアクセサリーが似合う事に気付いたとある愛妻家の貴族が、美しく装った妻の姿を見たいと欲して、密かに買い集めさせたのが発端なのであるが……さすがにそこまでの――ある意味で身も蓋も無い――裏事情は、この二人にも判っていない。
「……真相がどっちだとしても、最早その判断は僕らの手に余る。本国へ報告する必要があるんだが……」
レンドが敢えて濁した言葉尻、その内容についてはスキットルにも容易に想像が付いた。……下々の都合など意に介さぬお偉方の事だから、現物を手に入れろと言うに決まっている。
「だけどねぇ……アバンアのクセサリーはサガンの商業ギルドが買い集めてるんだし、今更僕らが割って入る余地なんか無いと思えるんだけど……」
「どうしてもというのであれば、買値の方も相当に高くしないと無理でしょうし、そんな真似をすれば、正面切ってギルドに喧嘩を売るようなもんじゃないですか?」
「だよねぇ……」
アバンアクセサリーを買い求めている何者かの背後に、ノンヒュームの影がちらついている以上、マナステラとしてもサガンの町には目を配っておく必要があるだろう。なのにここで、そのサガンの商業ギルド――背後にいるのはノンヒュームか?――の機嫌を損ねるような真似をするのは、誰がどこからどう考えても悪手である。
何か方法は無いものか。
「……アバンアクセサリーの買い集めを行なっているのは、サガンの商業ギルドだけでしたね?」
「そうみたいだね。……で?」
「いえ……アバンを訪れた商人がそのままサガンに蜻蛉返りするんならともかく、そうでないなら……アバンの後に立ち寄る町で網を張っておくというのも手かなと、そう思いまして」
「うん……悪い手じゃないね」
「ただ、サガンの商業ギルドの目の前で獲物を掻っ攫うような真似をする訳ですから、あまり何度も繰り返すのはどんなものかと」
「……確かにね。でも、一度か二度くらいならできるかな」
実行した場合のリスクとリターンを検討し始めたレンドをチラリと見遣りながら、スキットルは二枚目のカードを切った。
「もう一つ、これは小さな違和感のようなものなんですが……」
「……うん? 何?」
「自分で言い出しておいて何ですが、もしもデザインの手本として集めているのなら、アクセサリーに拘る理由は何でしょうか?」
「うん?」
「商業ギルドはアクセサリー以外のアバンドロップを集めていないようでした。なので、根拠の無い想像になりますが……もしアクセサリー以外のドロップ品のデザインがアクセサリーのデザインと似ているのなら、そっちもデザインの参考にはなる筈です。なのに、そっちには手を出していない」
「……確かに」
「可能性の一つとして、アクセサリーとそれ以外のドロップ品ではデザインが違っているとすると……」
「……アクセサリー以外のドロップ品のデザインはどうなのか。具体的に言えば、ノンヒュームの古美術品のデザインに似ていたりはしないのか」
「そういう事です」
――要するに、アクセサリーであるとないとに拘わらず、「アバンのドロップ品」を一度は実見しておく必要があるという事だ。
「……手懸かりが増えたと喜ぶべきか、やる事が増えたと嘆くべきか……」
ウンザリした表情を隠しもせずに呟くレンド。そして――そんなレンドの顔色を窺うかのように、
「――で、これからどうします?」




