第二百六十四章 噂の真相? 6.来訪者たち(その1)
「どう思った?」
商業ギルドとの面談を済ませ、ついでに〝アバンでドロップしたアクセサリー〟の幾つかを参考に見せてもらった後、建物を出てから暫く歩いたところで、レンドは徐にスキットルに問いかけた。
ギルド職員との交渉中は黙して後ろに控えていたが、あの目敏いスキットルの事だ。斥候としての経験も積んでいるようだし、何にも気付かないという事は無い筈だ。視点の異なる者からの意見は重要だし、ここはスキットルの意見も聞いてみるべき……と、レンドは質問する事を決めたのである。
「そうですね……思った事・感じた事は幾つかあります。最初に思ったのは、〝アバンのドロップ品――こういう言い方が適切かどうかは判りませんが――は、参考にとお国で見せてもらった『ノンヒュームの古美術品』とは違うようだ〟という事でした。……素人の意見に過ぎませんが」
――ここで裏事情を曝露しておくと、件の「アバンアクセサリー」とは、クロウの命令を受けたハンスがエメンの協力を得てデザインし作製したものである。
デザインの際にハンスとエメンが留意したのが、まず〝エッジ村のデザインと被らない事〟であり、次に気にしたのが〝シルヴァの森に住むエルフのアクセサリーと被らない事〟であった。
憖両者のデザインが懸け離れていたため、新たなデザインをでっち上げるのに二人は大いに苦労したが、どうにかそれをやってのけた事で、これらの「アバンアクセサリー」は、〝エッジ村のデザインとも『ノンヒュームの古美術品』とも違うデザイン〟に、どうにか落ち着いたのであった。
まぁ、そんな舞台裏の事情はともかくとして――尻込みする事無く意見を述べるスキットルの態度に、まずレンドは内心で感心した。一応は専門家である自分を前にして、臆せず意見を出せるという事は、〝素人の意見〟の持つ意味を知っているという事だろう。そしてその見解も、素直にして要点を衝いたものであった。
「そうだね。デザインもそうだけど、あれらの〝ドロップ品〟――こういう言い方が適切なのかどうかはやっぱり判らないけど、他に適切な言い方を思い付かないからこう言っておくよ――はそこまで古いものじゃないように見えた」
そういうレンドの言葉を聞いて、スキットルも我が意を得たりとばかりに頷く。
「普通に店売りしているアクセサリーと変わらないように見えました。自分が気になったのはブローチの留め方です。針で刺して固定する形式でしたが……あの針って、毛皮や樹皮の布は想定していませんよね? もっと軟らかい布に留めるようなデザインだと」
「確かに。……能く気が付いたね」
自身の専門が古陶磁であるため、最初はその点に気付かなかったレンドは、感心の中にも僅かの悔しさを含ませてそう答えた。
そして――〝店売りのものと変わらない〟というその事自体が、あれらのアクセサリーを価値あるものとしているのだろう。……骨董的・学術的な意味ではなく、実用品という意味で。
……それはつまり、あれらの「アバンアクセサリー」を求めている者は、実用品としてそれらを求めているという事だろうか。
「……重ねて言うけど、あれらはそこまで古いものじゃない。考古学的な遺物には見えなかったし、デザインは今風を通り越して寧ろ斬新と言っていい。骨董的な価値は無い……とまでは言えないけど、いつの時代のどこのものかも判っていないなら、その方面の価値は低いと見ていい。
「という事は、〝アバンからのドロップ品〟という曰くに蒐集品としての価値を見出しているのか……もしくは純然たるアクセサリーとして集めているのか」
考えを纏めるように口に出したレンドの台詞に、打てば響くようにスキットルが合いの手を入れる。
「前者の場合だと、何も『アクセサリー』に拘る必然性は無いのでは?」
「……確かに。そうすると、依頼人はあれらを『アクセサリー』として欲しているという事か。……シンプルなドレスに合いそうなデザインだったな」
何の気無しにレンドが呟いたその一言が、スキットルから驚くべき発言を引き出した。
「それはつまり、ノンヒュームが好んで着るようなドレスに――という事ですか?」
「――!?」




