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第二百六十一章 やって来た学者 4.再び王都イラストリア 王立講学院(その1)

(何とまぁ……)



 イラストリア王立講学院の学院長室でマーベリック卿と対面して現状の説明を受けているベルフォールは、(もっ)()この国が陥っている状況の微妙さに、同情はするものの(いささ)か呆れるような思いを禁じ得なかった。何しろ学院にはエルフもドワーフもいるというのに――



(……彼らが教えているのは、飽くまで魔法学に()(きん)学。自分たちの文化について教えた事は無かったとは……)



 (もっと)も呆れる一方でベルフォールは、それも(むべ)なるかなと納得できてもいた。


 自分たちの文化や習慣が他者のそれとどう違うのかに興味を持ち、(あまつさ)えそれを体系的に分析しようなどというのは、



(自分みたいな暇人の道楽者でもなければ、おいそれとは思い付かんか……)



 こういう他者への興味というのは、〝自分は他者と違う〟という自覚に端を発するものだろう。言うなれば一種の区別感、そこから生まれる民族的アイデンティティが一種の原動力になる。

 そしてその更に根源には、他の民族や種族を――言い方は悪いが――〝珍奇にして自分とは違うもの〟だと捉える感覚が存在する。


 ところが……イラストリアやマナステラでは、(なまじ)身近にエルフやドワーフ・獣人たちがいたせいなのか、理屈ではともかく実感として彼らを「他者」と見る感覚が――ヤルタ教など一部の差別主義者を除いて――育ちにくい。当のノンヒュームたちですら、自分たちを〝人族(ヒューマン)とは一線を画す者〟という(くく)りで捉えるようになったのは、ここ数年の事に過ぎないのだ。

 ところが……



(北国モルファンでは事情が違った訳か……)



 気候条件のせいなのか、モルファンにはノンヒュームがほとんどいない。故にこそ、彼らを特別な存在と見る感覚の方が一般的であった。

 そんな彼らが、〝ノンヒュームと(よしみ)を通じて発展している隣国(イラストリア)〟を羨望の目で眺めた時、〝ノンヒュームとの付き合い方を学びたい〟と考えるのは自然であり……そして更に〝ノンヒュームとの相互理解を果たすため、彼らの文化や習慣について知りたい〟と考えるのも、やはり当然の成り行きであった。

 モルファンは謙虚かつ友好的に、イラストリアに対して教えを請いたいと言って寄越したのだが……これに驚き慌てたのが当のイラストリアであった。



「……何しろ、ノンヒュームたちは独自に自分たちの組織化を果たし、ああいったアレコレ――砂糖や古酒の事だろう――を放出し始めたのでね。我が国との共謀……は言い過ぎか……ともかく、そういった協力関係は一切無い。なのに……」



 他国・他地域にもノンヒュームは多々あれど、イラストリア在住のノンヒュームだけが、突如としてその存在感を発揮し始めた訳だ。そこに何か独自の理由があると考えるのは普通であり、イラストリア王国にその黒幕の影を見るのもまた、故無き事とは言い切れない。



「我々としては、彼らが敵視しているテオドラムと国境を接しているのが、その最大の理由だと睨んでいるがね。無論、テオドラムを仮想敵国に抱く者同士――という親近感のようなものはあったかもしれんが」



 マーベリック卿はジロリとこちらを睨んでくるが……ベルフォールが事務局から受けた説明も、概ねそのようなものであった。イラストリア王国としては、とんだ(とばっち)りという思いが強いのだろう。ベルフォールにしても察するに余りある。



「……古酒の件がその誤解に輪を掛ける事になった。ノンヒュームたちは挨拶(あいさつ)のつもりなのか、ホルベック卿の(もと)へ古酒を届けたのだが……彼らが古酒を市場に流さなかったのと、それにも(かか)わらず古酒の美味なる事が喧伝(けんでん)される――これにはホルベック卿が古酒を王家に献上した事も大いに寄与しているのだがね――に至って、独りホルベック卿だけがその美味を独占しているかのような状況が生まれた訳だ」

「………………」

「思案に迷ったホルベック卿は、手持ちの古酒のほぼ全てを王家に献上するという手を打った。……そこに非難される()われは無いのだが……羨望と非難の矛先が、一転して王家に向く事になったのもまた事実だ」

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