第三十七章 シャルド 4.ダンジョンの建造
苦労して廃墟を建造する……こう書くと意味が解りませんね。
あと、設定資料集の「地図」章に、「イラストリア王国の地形」を追加しました。
設計した遺跡をどこに配置するか。間抜けな話だがそれを考えてなかった。
『シャルド遺跡の発掘場所の傍は、わざとらしさが過ぎるじゃろう』
『町の真下――暫定ダンジョンのある場所――は不自然なんじゃ?』
『軍事的にはどこに砦を置くべきなんだ?』
『そもそも、仮想上の建造者がシャルドに砦を置こうとしたのは、どういう理由があったとの設定でございますか?』
スレイの指摘に考え込んだ。確かに、そこまで設定を練ってはいないからな。不自然に見えるか?
『発掘報告書では、遺跡のあった時代を今から三千年ほど前と推定していた。砦を造った時代は流石にそれより後だよな? だったら、遺跡そのものか、もしくは遺跡がそこに成立した理由が使えないか?』
あの報告書では、確か……
『シャルド遺跡は当時の交易都市の跡と考えられている。今のバンクスみたいな感じだな。お宝というのも当時の交易品らしい。文化的にも発展した古代都市だったらしいから、何かオーパーツ的なものがあったとか、そんな理由じゃ駄目か?』
『マスター、オパーツって何ですか?』
『オーパーツ、な。「場違いな工芸品」という意味で、それらが発見された場所や時代に釣り合わない、つまり当時の技術では製造が不可能あるいは困難と考えられるような出土品の事だ。こいつの存在を認めるかどうかで、その文明の技術力の評価が根底から覆る、考古学では厄介な代物だ』
『そういうものがシャルド遺跡から出ているのでございますか?』
『いや。けど……』
『ますたぁのぉ、魔晶石はぁ?』
『あっ! そうですよ! マスターのアレを置いておけばいいじゃないですか』
キーン……俺が作った魔晶石って、「アレ」扱いなのか……
『名案じゃな。幸いモローで見つけた事になっておるし、ここにあってもおかしくはあるまい。ダンジョン内に残しておけば、勝手に色々考えてくれるじゃろう』
『じゃあ、古代遺跡、砦、シャルドの町、の順に成立した事にして……建造者は古代遺跡の事を知っていた筈だから、そこを壊すような事はしなかったとして……町外れってのが適当か』
『そんなところじゃろうな』
斯くしてようやく位置が決まり、地下砦――の廃墟――の建造が始まった。
途中、ルパのやつに頼まれた昆虫標本の乾燥が終わって挿絵を描く作業が入ったため、十日ほどは建造作業が中断したが、それ以降は順調に廃墟の建造――考えてみれば妙な言い回しだ――が進んだ。
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建造を開始してから――途中、中断はあったが――約一ヵ月、廃墟の骨組みが一応出来上がった。規模は大きいが途中で放棄したように造るのだから、もっと早くできると思っていたのだが……。
『建造途中で放棄した様子を演出する方が却って手間でしたな……』
『わざわざ擬装用の石材を造って運び込んだりしたからなあ……』
そう、普通にダンジョン壁を造るのならあっという間なんだが、人の手で建造した感を演出するために、何ヵ所かは石組みで造ったんだよ……。無論ダンジョンマジックは使ったが、それでも面倒臭かった……。
入り口の通路はまだ開けてない。崖崩れか爆破によって塞がれた感を演出しつつ、地中に埋まっている。あとは入り口を発見させれば廃墟にご案内だ。
『しかし、ご主人様、これだけのダンジョンが単なる囮でございますか……』
『何だか勿体ない気がします……』
『正直言うと俺もだ……』
『でも、主様、ここを見つけた王国軍が、そのまま要塞に使ったりはしませんか?』
『そこまで完成度は高くないと思うが……兵の駐屯場所や補給の問題もあるだろうし……用心だけはしておいた方がいいのか?』
悩んでいるところへ、ハイファが提案してきた。
『でしたら……二部構成に……しておくのは……どうですか?』
『二部構成?』
『はい……ダミーである……廃墟の奥に……密かに……別のダンジョンを……造っておくのは……どうかと……場合によっては……廃墟内を……奇襲する事も……可能です』
『よし、それで行こう』
ハイファの提案を受け入れて、一見未完成としか見えない階層の奥に、通常は塞がった状態の細い通路を幾つも造っておく。その中の一本の通路――とは言っても、人間が通るのは厳しい狭さ――を隠し迷宮に繋げておいた。こちらの迷宮の基本設計は円形迷路。方向感覚を狂わせるのが目的だ。複数の、人一人通れる程度の円形迷路が、瓢箪形に隣接して連なる形で広がっている。迷路の途中の分岐では、上や下の階層に移動する仕様になっている。本格的な実装は後回しで、骨組みだけを造っていく。ただし、ダンジョンの能力的には活きた状態にしておく。なお、コアルームに当たるものは造っていない。
……今更だが、自重を投げ捨てたという実感はある。
と言うか、最近これがデフォルトになりつつある。
もう一話投稿します。




