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第二百六十章 テオドラム~寒村発混迷便~ 1.ボーデ村【地図あり】

 時は遡って昨年の暮れ、場所はイラストリアとの国境近くにあるテオドラムの寒村ボーデ。役場の正式な記載では「ボーデロット」となっているが、地元ではただ「ボーデ」で通っているその村……もう少し具体的に言えば、クロウ一味が緑化による国境線の強化――奇妙に聞こえるかもしれないが、他に言いようが無い――に走った時、一掬(いっきく)の情けで村内に木立を創り出しておいたのを、トレントの幻影に怯えたテオドラム上層部によって伐採された、その村である。


挿絵(By みてみん)


「んだば、行ってくるで」

「あぁ、気ぃ付けてな」

「苦労をかけてすまねぇだなぁ……」

「大丈夫だって。……兎にも角にもこの冬の薪代を稼がねっと、生きて年も越せねぇで」

「んとによぉ……お上も何血迷って、折角の林を燃しちまったんだか……」

「そん話はもう()せ。お上の耳に(へえ)ったら、ただじゃ済まねぇぞ」



 国内にまともな森林を持たないテオドラム、その住民にとって生命線である薪の入手は、国境沿いの林からの盗伐によって(まかな)われていた……今までは。

 しかし、度重なる盗伐に業を煮やしたイラストリア側――正確にはクロウの意を受けた「緑の(しるべ)」修道会――が、国境の森林再生に(かこつ)けて、有刺や有毒の草木による重厚な阻止線をテオドラム側に()いたため、従来のような盗伐が難しくなっていた。ボーデの村民にしてみれば万事休すの事態である。

 ただ、イラストリア側――繰り返すが正しくはクロウである。しかしボーデの村民もテオドラムも、そんな事は知ってはいない――にも一抹の惻隠(そくいん)(じょう)はあったとみえて、代わりにボーデ村の近くに小規模な木立を造成してくれていた。

 やれ――これならどうにか日々の焚き付けも(まかな)えそうだと安堵したのも束の間、妙に態度を硬化させたテオドラム軍の一部隊が村を急襲、問答無用でその木立を伐り倒し焼き払うという暴挙に出たのが八月の終わり。

 ()(らい)ボーデの村の村人たちは、王国政府に対して抜きがたい不信と反感を抱くようになったのだが……それはそれとして薪である。冬越し用の薪をどこかから調達しないと、この冬には一村丸ごと凍死の憂き目に遭いかねない。

 困り果てていたところに聞こえてきたのが、イラストリアのリーロットで大規模な工事を行なっており、そのための人手を――国籍問わず――募集しているとの噂。テオドラム側における人員の手配は、リーロット最寄りのニルの町が采配しているとの噂であった。

 伝手(つて)辿(たど)って確かめてみたところ、募集の事実に間違いは無いと判明して……



「お上は何もしてくんねぇし、燃やされた林はあのまんまだし……」



 テオドラム兵によって伐採・焼却された林は、それ以来(ごう)も再生の気配を見せない。

 その一方で国境部のマント群落――主体は(とげ)だらけの灌木(かんぼく)(つる)植物――は、じわじわと範囲を拡大しており、(むし)ろ農地が脅かされる状況になっている。マント群落を構成しているのも植物には違い無いのだから、燃やそうと思えば燃えるのだが……嫌がらせにしても念の入った事に、これが(はなは)だ燃えにくい上に熱量も低いときている。おまけにやたらと伐採しにくく、とても労力に見合った燃料にはならない。


 これでテオドラム王国が補償に乗り出せば少しは違ったのだろうが、危機感が薄いのか関心が薄いのか、国王府は一向にその動きを見せない。


 ()くして、村ではテオドラム国王府(お か み)に対する不信と不満と不服の念が、(いや)が上にも高まっていたのであった。



・・・・・・・・



 ともあれそういった事情から、年の暮れに若い者たちが(こぞ)って村を離れ、ニルの町を経てリーロットへと出稼ぎに向かったのであったが……これがまたややこしい状況を生む切っ掛けとなったのである。


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