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第三十七章 シャルド 3.ダンジョンの設計

ダンジョンの廃墟を設計するという難題にクロウたちが挑みます。

 俺の提案――王国が無視できないような廃墟化したダンジョンをでっち上げて、王国の注意をシャルドに引きつける――は、爺さまやダンジョンコアを含む全員で討議され、とりあえずやってみて損はないだろうという事になった。


 そうすると、今度のダンジョンの設計は、今までの設計とはまるで違ったものになる。むしろ、モローの旧ダンジョンのようなスタンダードなタイプを意識すべきだろう。なおかつ、王家の興味をかき立てるような要素が必要になる……。


『王家が興味を持ちそうなダンジョン――の廃墟――って、どんなのだ?』

『今回もまたさり気なく無理難題を振ってくるのう』

『王家の興味ですか……』

『マスター、大っきくて、強そうで、財宝があったらいいんじゃないですか?』

『……案外、正鵠(せいこく)()ておるやも知れんのう』

『大きくて強いダンジョン、の廃墟か……つまり、復活したらヤバそうなダンジョンという事になるのか?』


 キーンの意見で大雑把な設計コンセプトが決まったな。王国にペテンを仕掛けるための大道具を造ろうというんだから、ミスはできるだけ少なくしたい。

 実際の作業に入る前にラフスケッチを描いて皆に構想を説明していく。



・・・・・・・・



『今度のダンジョンは大規模なものになるんですか?』

『ああ、ダンジョンと言うよりも強大な防衛能力を持つ砦のようなものを想定している。ダンジョンの機能で侵入者を潰し、ダンジョンモンスターで周囲を制圧する、そういうコンセプトだ』

『……よもや本当に造るわけではあるまいの?』

『もちろんだ。あくまで、そういうコンセプトで造られた、あるいは作動する手前で建造が放棄された、そう見える廃墟を造るわけだ』

『ダンジョンコアの身としては』『ちょっと見てみたい気もします』

『いや、実働するなら必要魔力量がとんでもない事になるぞ?』


 設計のコンセプトを説明した後で皆とマンションに移り、テーブル――というか()(たつ)――を囲んでラフスケッチの内容を説明していく。


『のう、クロウよ。入り口と見えるものが三つあるのはどういう事じゃ?』

『二つは罠満載の袋小路だ。とは言っても、真面目に進もうとしたら片道一日以上かかる規模になっている。分岐と屈曲をふんだんに(おご)ってな』

『真ん中が正解でないところが嫌らしいですね……』

『どのみち、全部確認し終えないと進まないだろうからな』

『入り口がぁ、広ぃですねぇ』

『あぁ、最低でも一個中隊での進軍が妥当、そう思わせる規模にする』

『そこまで広くする理由は何ですか、クロウ様』

『ある程度の規模の部隊を引き込んで、中で始末する事を考えている。大軍というのは本来、密閉空間内での戦闘を想定していないからな。広範囲に部隊を展開できなければ、軍が想定している連携は有効に働かん。更に、機動力を殺され、誤射の危険性を無視できなければ、侵攻は遅々として進むまい。時間がかかれば補給をどうするつもりか、知りたいものだ』

『うわぁ……』

『『クロウ様、さすがです』』


 ロムルスとレムスの声が綺麗に揃ったな。


『全部がこういった構成なんですか?』

『いや、二層目では戦力分断のためのギミックを付け足す。人数が多すぎても少なすぎても開かない扉とか、あるんじゃないか?』

『『定番です』』


 再び二名の声が気持ちいい位に揃った。


『二層目と三層目では、分断した部隊を迷路に引きずり込む。分岐と合流をくり返すが、合流した相手が敵か味方か、簡単には判らんようにする事を考えている』

『マスター、そんな事、できるんですか?』

『最も単純なのは煙幕だな。いかにも煙を通すための管みたいなのを付けてやれば、そう思いこんでくれるんじゃないか』

『単純な……目隠し塀でも……よさそうです』

『四層目から先は、俺たちのダンジョンでもお馴染みの狭い通路だ。ある程度以上の距離を進んだところで急に通路が狭くなっても、一旦大軍を戻してやり直す、というわけにはいかんだろう? 少人数に分断された敵を、一人一人片付ける』


『のう、クロウよ。聞いておるとえらく大規模なダンジョンのようじゃが、(しゅん)(こう)までにどれだけの期間を想定しておる?』

『爺さまの懸念も(もっと)もだ。だから、三層目以降は一部を造りかけのまま放棄する。時間が足りずに途中で建造を放棄した、しかし、残っている分だけでも充分な脅威になり得る、そう思わせたい』

『ふむ……一連の事件の黒幕が狙っておったのはこのダンジョン、というか要塞の再起動、しかし王国はそれに先んじて、このダンジョンの発見と確保に成功した、そう思わせたいのじゃな?』

『そのつもりだが……どうかな?』

『さぁて、のう……こればっかりはやってみん事には判らんが……それほど()の悪い賭でも無さそうじゃな』


『あれ? でも(ぬし)様、造るのってダンジョンなんですよね? ダンジョンの造りかけって、どういうのですか? ダンジョンコアがダンジョンを造る時って、普通そんな事しないですよね?』

『要塞として完成後にダンジョン化するつもりだった……クロウ様としては王国軍にそう思わせたいという事ですか?』

『あぁ、そのつもりだ』

『ふむ、それでは城、あるいは大きな砦のようなものを念頭に置いて、ここを造られるおつもりでございますか?』

『ああ、ただし所々に、後日ダンジョン化する事を考えなければ説明のつかないものを残しておきたいんだが……』

『魔石の設置場所なんかはどうでしょう?』

『単に……意味不明な……空洞や窪みを……造れば……勝手に……誤解して……くれるのでは?』



 何だかんだと討議しながら二日ほどかけて大まかな設計を煮詰め、三日目に第一階層から造成を開始……しようとしたところで重大な問題が発覚した。



『ますたぁ、どこにぃ、つくるんですかぁ?』


 考えてなかった……。

ダンジョンマスターがペテンのためにダンジョンの廃墟を造るというのは、多分異世界でも前代未聞です。

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