第三十七章 シャルド 2.眷属会議
シャルドをいかに活用するか。クロウたちの模索が始まります。
『知っている者もいると思うが、王国がシャルドの遺跡に目を付けたらしい。そこで今回の議題だが、第一に王国がシャルドに目を付けた理由、第二に俺たちの対応について討議したい。最初に第一の問題からだが、何か見当のつく者は?』
『見当も何も、遺跡以外に何があるんじゃ?』
『それはそうだが……なぜ今頃になって遺跡に興味を持ちだしたのか?』
『タイミングから……言えば……ヴァザーリ……でも……王家の興味は……モローしか……ないと……思いますが……』
『あぁ、しかしモローの何がこういった反応を引き起こしたのかが判らん』
『あの、主様、モローとシャルドの繋がりと言えば、アレしか……』
『……盗賊のお宝、か?』
『しかし、何でまた王家が、今頃になって、盗掘品に興味を持つんじゃ?』
『発掘報告書に目を通したが、特に変わったところは無かったと思うんだが?』
俺は、一緒に報告書の内容を追っていたライとキーンに目を向けた。二名とも文字は読めなくても、念話で俺の意識を読み取る事はできるからな。しかし、ライもキーンも否定の意を示し、何もおかしな所は無かったと言ってくる。
『王家が報告書を要求したという事は、王家もまた発掘品の内容を詳しく知らなかった可能性がある。つまり、発掘品そのものが王家の興味を引いたのではない、そう言えるかな?』
『王家が……手に入れた……何かが……発掘品の……可能性があり……確認……したという事は……ありませんか?』
むぅ、その可能性はあるか。しかし……?
『ハイファ、何か気づいた事があるのか?』
『ご主人様が……お作りになった……魔石珠……遺跡と……関連づけて……見られては……いませんか?』
あ……モローで拾った事になっているアレか……。
『……ふむ。王家は発掘品絡みでシャルドに目を付けた可能性がある、今はこれだけしか言えまいて』
『……爺さまの言うとおりだな。今はこれ以上の憶測をやめて、俺たちの対応についてだけを考えよう』
ちなみに、王家は特に理由があってシャルド遺跡の報告書を要求したわけではない。モローのダンジョンに拮抗する「何か」が存在する可能性があるため、王国中東部のデータを手当たり次第に掻き集めていただけである。しかし、クロウたちにしてみれば、何か理由があってシャルド遺跡に目を付けたのだろうと誤解するのも無理のない事であった。
これまで王国を引っ掻き回していたクロウたちだが、今度は逆に王国の行動に引っ掻き回されようとしていた。
『とは言っても、現時点では王国軍がシャルドにやって来るのかどうかすら判らんからなぁ……』
『万一に備えて、最低限の準備だけしておくしかあるまい』
『とりあえずダンジョンについては、階層の追加を行なった上で、基本的な構造だけでも造っておかれては如何でございましょうか』
と、言ってもな……
『実際にダンジョンとして使用するのか、それとも王国軍を引きつけるためだけの餌として使うのかで、ダンジョンの構造も変わってくるぞ。後者の場合は稼働していない廃ダンジョンでも問題ない筈だしな』
ふむ……。
『王国軍第一大隊か。何とかやつらの思惑だけでも知れればな……』
『ますたぁ、ルパさんはぁ?』
ルパか……。
『あいつを唆して王国の意図を探らせるためには、シャルドの遺跡に対する興味をかき立てる必要があるぞ? それこそ諸刃の剣だろう』
ふむ。王国の思惑はこの際措いといて、俺たちとしては事態がどう転ぶと理想的なのか、それを考えてみるか。俺としては、洞窟やクレヴァスはもちろん、ロムルスとレムスの迷宮からも注意を逸らしたい。要するに、うちの子たちに余計な注目が集まらないようにするのが目標だ。
そのためには……そうだな……いっその事……王国が無視できないような、廃墟化したダンジョンでもでっち上げて、王国の注意をシャルドに引きつけるか……。
シャルドの一件では、クロウと王国勢が互いに相手の意図を図りかねて、誤解と誤解の相互作用の結果、話が妙な方向へ進んでいきます。




