挿 話 ヴィンシュタット~ウィンタースポーツ談義~(その2)
「……牛の?」
「骨……?」
仲間から返されたのは共感ではなく、微妙な表情と声であった。……信じられない事を聞いたかのような。
「あれ……? 違うのか?」
「僕たちは木切れを使ってましたけど?」
「同じだな」
他の男性陣から挙って否やを返され、カイトは救いを求めるかのようにマリアを見るが、
「……あたしの家では、ちゃんとした滑り靴を使ってたから……」
「あー……」
「そうか。そう言えばマリアは……」
「お嬢様でしたもんね」
「今の姿からは想像も付かねぇけどな」
「……喧嘩売ってんの?」
険悪な空気になりかけたところで、それを振り払うかのようにクロウが介入する。尤も、クロウにそういう意図があったかは微妙だが。
「川で滑ってたのか? 池とかじゃなく?」
クロウの――良い意味でKYな――問いかけに、これ幸いと飛び付いたのがフレイであった。
「川とか水路とかで滑ってましたね、大抵は」
「町の傍にあるものを別として、氷滑りができるくらい大きな池には、大抵モンスターがいましたし」
「あー……こっちだとそうなるか」
どうやらクロウは、氷上でのワカサギ釣りを念頭に置いて質問したようだが、そういう漁法は初耳だと返された。一同興味は抱いたようだが、
「実際問題としてそれができるかってぇと……」
「難しいですよね」
「抑、座っているだけだと運動にならないのでは?」
――という疑義が呈されるに及んで、そう言えば元々はそういう話だった……と、認識を新たにする一同。
それでは、運動量の多そうなものは――と議論が再燃しかけたところで、
「けど……外でやるんじゃハクとシュクには厳しいですね」
オーガスティン邸の使用人であるドロテがそう呟いた事で、ピタリと議論が止む事になった。
「そっか……レプティリアンだもんな」
「寒気の中だと、身体を上手く動かせねぇか」
「事故の危険がありますよね」
オーガスティン邸のチビッ子二人を置き去りにするような真似ができようか――という訳で、野外で行なうウィンタースポーツは全没となる。残るは室内競技である。
(そうなると……卓球とかか? コートを用意すれば、テニスとかもできなくは無いだろうが……)
コートはともかく、道具を揃えるのが面倒だな――と思っていたところで、〝室内での運動〟というキーワードから、クロウの脳裏に閃くものがあった。
(そう言えば……ずっと前に押し付けられたものがあったな……)
嘗て従姉がエクササイズ用にと購入し、案の定持て余すようになった器具を、引き籠もりの運動不足解消という名目で押し付けられた事がある。そのままマンションで押し入れの肥やしとなっているが、
(確か……ぶら下がり健康器にバランスボール。あと、小型のトランポリンがあった筈だ)
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斯くいった次第で、冬のオーガスティン邸ではトランポリンが流行る事になったのであった。
ちなみにバランスボールは、エクササイズと聞いたマリアが流れるように攫っていった。




