挿 話 ヴィンシュタット~ウィンタースポーツ談義~(その1)
「あ~あ、こう毎日雪が続いたんじゃ、表に出る事もできやしねぇ。身体が鈍っちまうってもんだぜ」
クロウが偶々ヴィンシュタットを訪れていた或る日、カイトがそんな事をぼやいたのが事の発端であった。
「何だ? 身体を動かしたいんなら、アバンのアスレチック場にでも行くか?」
「オドラントでペーターの旦那たちに交じって訓練するって手もあるぜ?」
カイトのぼやきに――慣れた様子で――応じたのは、パーティメンバーのハンクとバートであった。そして、そう斬り返されたカイトの反応はと言うと――
「いや……あぁいうガチなのはちょっと……」
もう少し緩い感じのがお望みのようだ。
そして――偶々その場に居合わせたクロウが、
「成る程……要はウィンタースポーツか」
などと呟いた事から、以下に述べる頓珍漢な喜劇の幕が開く事になった。
「ウィンタースポーツ……?」
「――って、何すか? ご主人様」
要は退屈していただけのカイトに、クロウが恰好の燃料を投下した形である。
「何と言われてもな。要は冬季限定で行なわれるスポーツ……運動競技の事だな」
そこはカイトたちもクロウとの付き合いはそれなりに長いので、クロウが異世界からの渡り人――日帰りでこっちを訪れる者を「渡り人」と読んでいいのかは別として――である事も、クロウの故郷である「地球」には、スポーツと呼ばれる体育競技が存在する事も知っている。ただ、そんな彼らも「ウィンタースポーツ」という単語は初耳であった。
「冬季限定……」
「何で冬にしかやんないんすか?」
「雪や氷が冬にしか無いからだな。まぁ、厳密に言えば作れん事も無いが、コストがかかり過ぎるんでな」
つまりは〝雪や氷が不可欠な競技〟という事であろう。
そう聞かされたカイトたちの脳裏に最初に浮かんだのは、
「雪合戦……すか?」
「違う違う。……いや……確かにあれも国際ルールが定められていたが……」
一般に「ウィンタースポーツ」と言った場合は、(雪合戦ではなくて)スキーやスケート、アイスホッケー、カーリングなどの事を指す。……クロウの中では「ワカサギ釣り」もこれに含められているようだが。
ちなみにクロウ、これで意外にもウィンタースポーツは得意であった。何しろ、滑っている間は他人と関わらなくていいのだから、クロウの気質と実にマッチしていたのである。……ワカサギ釣りは言わずもがな。
ただ、そんなウィンタースポーツがこちらの世界で受け容れられるかと言うと……
「冬でも夏でも、山ってなぁ基本、モンスターの領域ですからねぇ……」
「遊びのためだけに入ったりはしないよなぁ」
ここでまずスキーという選択肢が除外される。次に挙げられるのはスケートだろうか。
「スケート?」
「あぁ、『氷滑り』の事っすか?」
「あー……そう言やぁやったな、ガキん頃」
「だよな。凍った川で、木靴に牛の骨括り付けてよ」
子どもの頃の思い出を懐かしそうに語るカイトであったが……




