第二百五十六章 エッジ村発ファッション波紋 7.アバンドロップ~蒐集者~
エメンが苦心の果てに作り上げた、〝エッジ村風とは一線を画しつつも、同じように貴金属の細工を前面に押し出したデザイン〟。
これが――或る意味では必然的なのかもしれないが――エッジ村風ドレスと殊の外相性が良かったのである。
それはつまり、エメンとハンスが生み出した「アバンのドロップ品」としてのアクセサリーに、大きな付加価値が付いたという事でもあった。
――そしてそのせいでアバンの廃村は、エッジ村風ファッションを巡る多大な需要――と言うか、特需――に巻き込まれる羽目になった。
予想外の事態にクロウ一派が当惑するのは勿論であるが……それ以外に、そしてそれ以上に、想定外の事態に当惑させられる者たちがいた。
だが、結論を急ぐ前に、件の「アバンドロップ」が引き起こした事態を、時系列に沿って追ってみよう。
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事の発端は全くの偶然であった。
新たな年の一月も終わりとなった頃、アバンの廃村こと「間の幻郷」からドロップしたアクセサリーを偶々入手した貴族が、これが甚くエッジ村風ドレスとマッチする事に気付いたのである。
俄然興味を掻き立てられたこの貴族は、これを持ち込んだ宝石商にアクセサリーの出所を問い合わせ……そして、「アバンのドロップ品」であるとの回答を得る。
その貴族は即座に宝石商と共謀してサガンの商業ギルドに、アバンでドロップするアクセサリーを――秘密裡に――集めてほしいとの依頼を出した。
依頼を受けたサガンの商業ギルドは、モルヴァニアとイラストリアとの距離もあって、エッジ村風ファッションが巻き起こした波紋についての詳細を把握していなかった。なので依頼の内容には当惑したが、その依頼を引き受ける事自体に逡巡は無かった。
引っかかったのは依頼文にある〝秘密裡に〟という箇所である。
「秘密裡にと言われても……商業ギルドではギルド員に依頼を公布して、アクセサリーを集めてもらうしか無いんだが……」
まさかギルドの職員がアバンに日参する訳にもいかないし、第一そんな真似をしたら、立ち所に商人たちの耳目を集めるに決まっている。〝秘密裡〟どころの話ではない。
ならばじっくりと時間をかけて、目立たぬように集めるべきか?
依頼主に問い合わせたところ、それでは拙い、至急欲しいという返答。どうしたものかと頭を抱えた結果、
「……とある依頼人――名は伏せる――が、アバンでドロップするアクセサリーの見本を欲しがっている。先方の希望であまり高い値を付ける事はできないが、商業ギルドはギルドのメンバーが協力してくれる事を切に願っている……こんなところか?」
「うむ。一言半句と雖も嘘は含まれていない」
「〝とある依頼人〟の正体を含めて――な」
どこぞの国家機関からの依頼と誤解する者も出るかもしれないが、ギルドはそこまで関知しない。
〝あまり高い値を付ける事はできない〟と言った割には悪くない価格で買い取ったために、アバンでアクセサリーを入手した者は、それを商業ギルドに持ち込むようになった。何しろアバンを詣でる者は、商人だけに限らず多種多様。アクセサリーの処分に困る者も少なくなかった。商業ギルドで買い取ってくれるのなら願っても無い――と考える者も多かったのである。
そしてその結果、アクセサリー目当てにアバンを訪れる者が増えるようになった。
――これが第二のトリガーであった。




