第二百五十六章 エッジ村発ファッション波紋 6.アバンドロップ~製造元~
――読者は憶えておいでであろうか。
嬉々として趣味に没頭・耽溺していたハンスがクロウに雷を落とされ、アクセサリーのデザインを手掛ける羽目になった事を。
そしてそのアクセサリーは、廃村アバンの迷い家こと「間の幻郷」のドロップ品として準備されたものであったという事を。
言い換えると……それらのドロップ品は、人目に触れるのを前提としている事を。
ここで時計の針を少しばかり巻き戻して、ハンスとエメンがドロップ品用のデザインに着手した時の模様をお送りするとしよう。
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「沈没船から回収したアクセサリーは、ドロップ品に廻しても構わねぇのか?」
歴史学徒を自認するハンスとしては、沈没船のお宝も興味の対象となるのではないか?
それを懸念したエメンがハンスに訊ねたのであるが、
「……興味が無いと言えば嘘になりますけど、海賊の財宝に較べると時代も新しいですし……何より、これ以上遅らせるとご主人様の雷が……」
「あぁ……害悪にしかならんものなど不要――とか仰って、丸ごと溶かして地金にしちまう……なんて事もありそうだよな」
そんな大惨事に較べれば、沈没船のお宝を生贄に差し出すくらいは許容範囲である。……そう、確かに許容範囲ではあるのだが……
「でも……できる事ならレプリカの方を差し出したいですよね」
「その分、こっちの手間が増えるって事だろうが。……まぁ、面白そうだからいいけどよ」
本質的に職人であり贋作者であるエメンにしても、年代物っぽいアクセサリーをでっち上げるというのは、琴線に触れるものがあったらしい。
「で――問題ななぁ、手持ちに宝石の類が少ねぇって事だよな?」
「沈没船から回収したアクセサリーって、どれもこれも宝石主体のデザインですからねぇ……」
「かと言ってよ、エッジ村と同じ丸玉を使う訳にもいかねぇぜ?」
「余計な詮索をされると面倒ですからねぇ」
――そうなると、宝石中心のデザインはできない。
宝石は飽くまでワンポイントとして、貴金属の飾りを中心に据えたデザインにするしか無いだろう。
「けど……そうすると、エッジ村のデザインに似てきませんか?」
出発点は違うのだが、デザイン的に同じ方向に収斂してしまうのではないか。ハンスの危惧は無理からぬものと言えたが、
「ま、その辺はこっちで何とかすらぁ。エッジ村のデザインほど突き抜けてなくたって、蔓草の模様ってなぁ昔からあるしな」
「あぁ……唐草模様というやつですね」
「おぅよ。あれっぽく仕上げてやりゃあ、そこまで似たものたぁ思われねぇだろ」
そこはエメンも素人ではないので、疑われないような配慮はしたらしい。幾何学的な形の中にも唐草模様を巧く使って、エッジ村風デザインと被らないようなデザインを生み出す事に成功していた。
完成品を見たハンスは至極感服の体であったが……これが新たな混乱の引き金となるのであった。




