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第三十七章 シャルド 1.バンクス市立図書館

シャルドの地が表舞台に登場します。

 ルパのやつから依頼された昆虫標本の展足を終えてかれこれ一週間、標本が乾燥するまで手持ち無沙汰(ぶさた)になった俺は図書館で調べ物をしていた。


『ますたぁ、兵隊』


 ライからの念話で、俺はずっと読んでいた報告書から目を上げた。王国軍兵士の服装をした二人連れが、図書館の職員に何か尋ねている。と、若い職員の一人が何か言いつかったらしく、本棚に駆け出して幾つかの本を抜き出し、上司らしき年配の職員のもとへ戻って行った。年配の職員はその本を兵士に渡しつつも首を(かし)げていたが、やがて俺の方に目を向けると、兵士に何やら話し出した。厄介事かな?


 年配の職員は二人の兵士を伴って俺のところへ来ると、困ったように切り出した。


「申し訳ありません。今お読みの本を王国軍が早急に必要だとかで、供出命令が来ているんです。相済みませんがその本をお渡し願えませんか」

 ふむ。少し探ってみるかね。


「この本……って、本をお間違えじゃありませんか? これって、この近くの遺跡の発掘報告ですよ?」


 そう、俺が読んでいたのはシャルドの遺跡についての発掘報告書。あの場所にダンジョンを造った事で遺跡自体に興味も湧いたし、盗掘されたというお宝の件も、モロー近辺――できれば迷宮から離れた位置――に王国の注意を引きつけるのに役立ってくれそうだと考えての事だ。


「いえ、こちらとしても不思議ではあるんですが、その本で合ってます」

「まぁ、そう言う事なら仕方がありませんが……」


 ここで、当の兵士二人連れが口を挟んだ。


「済みませんね~。ウチの大将が妙な事を言い出したばっかりに」

「本当に申し訳ない。必要な部分を調べ終わったら、できるだけ早く返却するよう上官に()(しん)しておくので」


 二人連れは(そろ)って頭を下げた。一介(いっかい)の庶民に頭を下げるくらいだし、本当に悪いと思っていそうだな。なら、もう少し鎌をかけても答えてくれるか?


「いえ、お仕事なら仕方がありませんよ。でも、軍があそこを再発掘する計画でもあるんですか?」

 もしそうなら面倒だ。早いところダンジョン化を解除しておかないと疑われるだろう。……いや、あえてダンジョンを発見させて、そちらに注意を引きつける手もあるか……。


「さあ、上の方が何を考えているのかは自分のような(した)()には……」

「でも、少なくとも軍が発掘ってこたぁないと思うんですけどね。そいつぁ軍の仕事じゃない」

「すると、再発掘自体はあり得るとお考えですか?」

「さてね。ただ、どこかに再発掘を依頼するなら、そもそも俺たちがこんな使(つか)いっ(ぱし)りをする理由が無ぇわけで」

 ここらが潮時(しおどき)か……。


「いや、どうも好奇心から余計な事をお尋ねして、お手間を取らせました。どうかお持ち下さい」

 報告書を差し出すと、ほっとしたように報告書を受け取った。さて、最後にもう一つだけ……。


「しかし、この町にも兵隊さんがいたんですね? ついぞお見かけした憶えがありませんでしたが?」

「いえ、自分たちは王都の第一大隊の者です」

 ふむ、王国軍第一大隊ね。素顔を見られたのは(まず)かったか? 

明日はこの話の続きです。

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