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第二百五十五章 ヴァザーリを巡って 7.テオドラム王城

 新年祭終了から二週間ほど経った或る日、テオドラム王城の一室で、恒例の国務会議が開かれていた。本日のお題はヴァザーリである。


 実はヴァザーリに関しては、テオドラムは或る意味で(りょう)天秤(てんびん)をかけていた。

 基本的な方針として、密かにヴァザーリ当局と結んでエールの新規開発に乗り出していたが……仮にこれがポシャってヴァザーリが(ちょう)(らく)しても、その時はヴァザーリの代わりをマルクトの町が務めるだけであり、マルクトからニルを経てイラストリアへ至る街道が栄えるだけだ。(いず)れにしても不利益は無い。

 (むし)ろ、イラストリアの出方を見る事によって、()の国の思惑(おもわく)を察する事ができるやもしれぬ。


 ……そんな算段を巡らせていた国務卿たちであったが、小さな報告がその楽観に、不確定という名の波紋を生み出す事になる。



「停車場でヤルタ教の密偵を見た? 確かなのか?」

「それが……乗合馬車に乗る間際に、チラと見かけただけらしくてな。見間違いという可能性も否定できんそうだ」

「ふむ……」



 チラ見しただけのあやふやな目撃情報など、如何(いか)ほどの価値があるのか怪しいが、()りとて()(きゃく)していいものかどうか。判断に迷った密偵が、参考情報として送って寄越(よこ)したらしい。



「ヤルタ教は確か、ヴァザーリの住民に追い出された筈。今更舞い戻る理由があるか?」

「偶然に立ち寄っただけ――という事も考えられるが……」

「いや、真相がどうあれ、ここは何らかの意図があったものとして考えるべきだ」



 ――という動議が出され、一同もこれを()とした事で、検討が始まった。



「単にイラストリアの動きを知りたいだけじゃないのか?」



 最初に最も単純、かつ安直な解釈から始まったのだが……



「そこが問題だ。ヤルタ教が手を伸ばしたのがヴァザーリという事は――ヤルタ教が知りたいのは『イラストリア王国』の動きであって、『ノンヒューム』の動きではない――という事になる」

「……成る程。ヤルタ教がノンヒュームの動きを知りたいのなら、エルギンやバンクス、サウランドなど、ノンヒュームが店を出している町を選ぶだろうな」

「うむ、ヴァザーリで網を張る訳が無い」



 ――違う。

 ヤルタ教が知りたいのはイラストリアではなく、他ならぬテオドラムの動きである。


 そのテオドラムがどうやらダンジョンに執心しているらしいと気付き、ならばとダンジョンの情報を吸い上げる伝手(つて)として冒険者ギルドに目を向けて、御しやすいギルドとしてヴァザーリが選ばれた……という()(えん)な次第なのであった。


 ……確かに、余人には解りづらい経緯(いきさつ)であるし、それがために誤解する向きもあったようで……



「いや……今気付いたんだが、逆の可能性もあるかもしれん」

「逆?」

「どういう事だ?」



 同僚が口々に(いぶか)る声を上げる中、



「ヴァザーリならノンヒュームたちが訪れる可能性はほとんど無い。それこそが、ヴァザーリを選んだ理由だとしたら?」



 穿(うが)った見方を提示され、うーむと考え込む国務卿たち。



「いや、しかし……仮にノンヒュームの目を逃れられたとしても、人族(ヒューマン)の目は逃れられんだろう?」

「ノンヒュームだけが問題だというのか?」



 ……などと疑いの声が上げられる中、



「……ノンヒューム以外には判らないか……もしくは、人族(ヒューマン)なら気付いても黙っているような……?」



 ――一人が妙な事を言い出した。その結果、



「まさか……ヤルタ教はヴァザーリでビールか……もしくはそれに類するものを造ろうとしているのか?」


筆者の別作品「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新の予定です。宜しければこちらもご笑覧下さい。

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