表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1383/1811

第二百五十五章 ヴァザーリを巡って 5.ヤシュリク~イスラファン商業ギルド~(その1)【地図あり】

 新年祭終了から十日後、イスラファンの商都ヤシュリクでは、視察から戻った商業ギルドの面々が再び顔を付き合わせていた。会合の議題はリーロットの新興ぶりとノンヒュームの商品についてであったが、それについては一応の討議を終えた。

 今は新たに問題となった案件――ヴァザーリについての話である。



「思った以上にヴァザーリが落ち目になっておったな」

「うむ。あの様子では、遠からず一介の宿場町に転落するやもしれん」

「話がヴァザーリだけの事ならそれでもいいが……」



 ヤシュリクの商人たちが眉を(ひそ)めているその理由は、一に懸かってヴァザーリとヤシュリクの位置関係にある。


挿絵(By みてみん)


 イスラファンとイラストリアを直接に結ぶ唯一の街道、その門口(かどぐち)に当たるのが他ならぬヴァザーリなのだ。

 交通の要衝には違いないので、ヴァザーリがどん底に陥る事は無いだろうが……



「あそこが不振に陥るだけでも大問題じゃ。下手をすると、イスラファン南街道の価値が大幅に下落しかねんのだぞ」

「それはそうなんだが……」



 ――彼らが懸念しているのは、イラストリアとの交易ルートの問題であった。


 このところ無視できぬ勢いで存在感を放っているノンヒューム。そんな彼らが拠点としているのが、そしてその商品を流している場所が、他ならぬイラストリアなのである。

 (ひっ)(きょう)、商人たちの間でも、イラストリアとの交易の価値は、天井知らずの勢いで上がっている。そしてイラストリアへ向かう街道の価値も。


 イスラファンからイラストリアへ直接向かうルートは南街道一本であるから、そのとば(くち)たるヴァザーリの価値は衰えないように思えるのだが……生憎(あいにく)と、そうは問屋が卸さない。

 商人たちが求めているのはノンヒュームがもたらす商品であって、そのためにはノンヒュームたちの機嫌を損ねるような真似はできない。

 となれば……ノンヒュームと敵対した――のみならず、今も(アンチ)ノンヒュームの気風が強い――ヴァザーリを通るなど(もっ)ての(ほか)……という結論に商人たちが至るのも、(けだ)し当然と言える。


 悪い事に、沿岸部から(・・・・・)イラストリアへ向かうルートはもう一つある。

 アムルファンのソマリクからテオドラムのマルクトへ入り、そこからニルを経てリーロットに、或いはサウランドに向かうルートである。リーロットもサウランドも、共にノンヒュームの出店先であるから、このルートの潜在的な価値は低くない。現時点では()(ほど)(にぎ)わっている街道ではないが、テオドラムがここを整備すれば、一気に重要ルートに化けるであろう。そして――このルートではヤシュリクの出る幕が無い。

 一応ヤシュリクからマルクトへ向かうルートもあるのだが、沿岸部からヤシュリクへ至る途中には、百鬼夜行で名を馳せたベジン村がある。あそこを通るくらいなら、いっそカファからソマリクを経てマルクトへ……と、考える者も少なくないであろう。そうなると、(びん)(ぼう)(くじ)を引くのはやはりヤシュリクである。


 アムルファンは当然のようにこちらを推しているし、それはテオドラムも同じだろう。

 対するヤシュリク~ヴァザーリのルートを推すのはイスラファンとヴァザーリになるが……イスラファンと組む相手が落ち目のヴァザーリとなると、これは(いささ)か分が悪い。

 いや……アムルファンと組むテオドラムも、落ち目というなら人後に落ちないだろうが……それでも向こうは仮にも一国。商都崩れのヴァザーリとは較べるのも烏滸(おこ)がましい。



「つまり……我々としてはヴァザーリの復興が望ましい。……そう結論せざるを得ん」



 ザイフェルの声明に難しい、そして渋い表情で(うなず)く一同。



「話の筋道としては同意するが……では、具体的にどういう策を採るおつもりか?」



 そう問いかけるラージンであったが、



「どうもこうもあるか。ヴァザーリが自力で再起できんのなら、手を貸してやるしかあるまいが」



 不機嫌そうに言い放つザイフェルの台詞(せりふ)に、思わず息を呑む一同。

 論理の展開上はそうなるかもしれないが、それはつまり〝ノンヒュームの敵対者を援助する〟事に他ならない。ノンヒュームと敵対する旗幟(きし)を鮮明にすると言うのか?


 幾ら何でもそれは商人として……などと口々に言い募る一同を無造作にあしらうと、ザイフェルは自分の意見を開陳(かいちん)する。



「まぁ聴け。建前(たてまえ)はどうあれイラストリアとしては、マルクトを経由するテオドラム北街道がヴァザーリを通るイラストリア南街道に取って代わるのは容認できん……その筈だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ