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第二百五十五章 ヴァザーリを巡って 2.ハラド助祭の困惑(その2)

 国内に雄大な山脈を(よう)しているせいか、イラストリアは国土面積の割にダンジョンが多い。幾つかは既に討伐されて涸れているようだが、それらを除いても多数のダンジョンが存在している。

 テオドラムの立場に立ってみると、これは案外重要な条件なのかもしれない。ハラド助祭はこの事を頭の隅に置いた上で、改めて検討を続ける事にした。



「……『ピット』はその後に凶暴化して、テオドラムの冒険者では手が出なくなったと聞くが……その埋め合わせをするかのように、テオドラムの国内(?)に二つのダンジョンが出現した……」



 言わずと知れた「怨毒の廃坑」と「災厄の岩窟」である。後者はテオドラムとマーカスの国境線上にあるため、〝国内〟と言い切るには微妙であるが。



「だが、それらが『ピット』の代わりになっているかと言うと……」



 「怨毒の廃坑」は毒とアンデッドのダンジョンである。素材を得るどころか入る事も不可能。いや、それ以前に、吟遊詩人(バード)たちの言葉を信じるならば、坑道の(きわ)にある村に立ち入る事すら許されないというではないか。埋め合わせになどなる訳が無い。

 一方「災厄の岩窟」であるが、こちらは一応中に入る事はできている……どころか妙に探索に力を入れているようだが、あそこは鉱物に特化したダンジョンであると聞く。所謂(いわゆる)ダンジョンモンスターの素材が得られているかは大いに怪しい。少なくとも、あそこ由来だという素材が出廻っているとは聞いていない。


 ――つまり、テオドラムにとって、ダンジョン素材の入手状況は改善していない。



「そういう事なら……イスラファンにダンジョンがあるかもしれぬという噂に飛び付いたのも……(あなが)ち解らないでもない……のか?」



 そうすると、ヤルタ教が次の避難地と見定めているイスラファンにテオドラムが執着するかどうかは、イスラファンにダンジョンがあるかどうか、もしくは今後発見される可能性があるかどうかに懸かってくる。

 つまりヤルタ教が気にするべきは、イスラファンにおけるダンジョンの所在であり、その情報の入手と言えるだろうか。



「いや……イスラファン以外の場所にダンジョンが発見されて、テオドラムの目がそちらに向いた場合、テオドラムがイスラファンへの関心を失う事も考えられる。……監視対象をイスラファンだけに絞る事はできん」



 そうなると――やはり個々の冒険者と言うより、冒険者ギルドという組織に伝手(つて)を作る方が望ましい。

 仮に部下を冒険者に仕立てて潜り込ませても、そう度々ダンジョンの事を訊ねさせては怪しまれるかもしれぬ。情報部員(エージェント)が世人の()(もく)を集めるなど、あってはならぬ事である。

 やはりここは、冒険者ギルドという組織に渡りを付けるべき。そこまでは確たる結論が出せた。


 ところが――ここでその方針の前に()(はだ)かるのが、冒険者ギルドとヤルタ教との不和である。前述したとおり、冒険者ギルドとヤルタ教の間は、お世辞にも上手くいっているとは言い難い。ヤルタ教がダンジョンの情報を要求したところで、果たして素直に渡してくれるかどうか……大いに疑わしいと言わざるを得ない。

 それどころか、ヤルタ教をノンヒュームの敵と見定めたギルドが、()(まん)情報を寄越(よこ)してくる可能性すら懸念されるのだ。


 かかる不本意な状況の中、ヤルタ教が主導権を握る形で冒険者ギルドとコネクションを結ぼうとするなら、落ち目になっている冒険者ギルドを相手にするしか無いであろう。

 候補としてはバレンとヴァザーリが挙げられたが、バレンのギルドはテオドラムの冒険者ギルドと結ぶ事を選んだようだ。下手にバレンの冒険者ギルドに手を出せば、こちらの動きがテオドラムに筒抜けになる可能性を無視できない。それは(すこぶ)る好ましくない。

 (ひるがえ)ってヴァザーリの冒険者ギルドであるが、あそこは元々ノンヒューム狩りを主たる稼ぎにしていたギルドだ。ダンジョンアタックのノウハウなど持っていない。

 が――そこはそれほど気にしなくていい。欲しいのは他地のギルドとのコネであり、情報入手の()(づる)だけ。ギルド自体の能力ではない。


 情報入手と言うだけなら商業ギルドと手を結ぶのもあるが、あそこは生き馬の目を抜くような連中の巣窟なので油断できない。

 新興著しいリーロットに潜り込む手も考えられるが、あちらにはテオドラムの冒険者が出稼ぎに来ているし、それを警戒したリーロット当局やイラストリアの監視の目が厳しい。工作を行なうのは無理だろう。


 ……というような判断に基づき、ハラド助祭はヴァザーリの冒険者ギルドと結ぶ事を考え、部下に下調べをさせたのであるが……

 


「参った……こうもややこしい状況になっていたとは……」



 ――と、冒頭の情景に(つな)がる訳である。



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