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第二百五十五章 ヴァザーリを巡って 1.ハラド助祭の困惑(その1)

「参った……こうもややこしい状況になっていたとは……」



 新年祭が終わって一週間後、部下からの報告書を前にして浮かぬ顔で考え込んでいるのはハラド助祭。ヤルタ教の暗部を(まと)める幹部である。



・・・・・・・・



 万一の場合のヤルタ教の待避先として検討中のイスラファン、そこに何かと敵の多いテオドラムが触手を伸ばしている事を知ったヤルタ教は、安全保障の観点からも、テオドラムの動きに注意せざるを得なくなっていた。

 その調査の過程で浮かび上がって来たのは、どうもテオドラムはダンジョンを、もしくはダンジョン産の素材を欲しがっているのではないかという仮説であった。


 ヤルタ教サイドが()してダンジョン素材を希求していなかった事もあって、「ダンジョン」というものに対しては関心が薄かった。それがテオドラムの動きを把握し損ねた一因らしいとあっては、ヤルタ教情報部門としてもダンジョンの情報に注意を向けざるを得ない。



(そう言えば……うちの教主もダンジョンの配置について、何やら(いっ)()(げん)あるみたいだったしな)



 それを考えれば、もう少しダンジョンの情報を入手する事に、前向きになってもいいだろう。そして、「ダンジョン」とくれば「冒険者」である。ここは冒険者の間に伝手(つて)を作るに()くは無い。


 ……というところまでは、割とサクサク考察が進んだのであるが、そこから先がちと厄介であった。



(冒険者ギルドとの仲は、「勇者」の件で少し微妙になっているからな……)



 (かつ)てヤルタ教が独自(かって)に任命した「勇者」、彼らが(いず)れも――そこそこ有望視されていた――冒険者であり、それがヤルタ教の〝使命に(じゅん)じて〟行方(ゆくえ)を絶った事で、ヤルタ教と冒険者ギルドの間には隙間風が吹いている。

 ダンジョンの情報を寄越(よこ)せと言っても、果たして素直に応じるかどうか。――いや、「依頼」という形にすれば受けてはもらえるだろうが、足下(あしもと)を見られて吹っかけられるか、不充分な情報しか寄越さないという可能性は捨てきれない。



(だったら……ギルドではなく冒険者個人に、直接渡りを付けた方が良いか?)



 冒険者の中にだって、ヤルタ教の信徒がいない訳ではない。

 ただし、そんな冒険者の大半はヴァザーリの者で、ノンヒューム狩りやその護衛を(もっぱ)らにしていた。言い換えると、ダンジョンは未経験の者ばかりである。

 しかも、ノンヒュームの件で味噌を付けたヴァザーリの冒険者は、イラストリア国内では受けが悪い。彼らに訊き込みをさせようものなら、又候(またぞろ)何かノンヒュームに対して仕掛けようとしているのだろうと、疑われるのは目に見えている。そこでヤルタ教の名が出て来たりすれば、これはもう(ばん)()(きゅう)すである。



(と、なると……これは暗部(うち)のやつらを潜り込ませる方が良いのか?)



 来る者拒まずが冒険者ギルドの方針であるから、登録自体は問題無い。しかし……



(いや……目的を見誤ってはならんな。ダンジョンの情報が必要なのは、飽くまでテオドラムの動きを把握するため。冒険者や冒険者ギルドへの伝手(つて)はその手段だ。……してみると、テオドラムから遠く離れた地のダンジョン情報、或いはその地の冒険者ギルドとの伝手(つて)は、これは目的に(かな)ったものとは言えん……か?)



 ここで助祭は改めて、テオドラムの立場に身を置いて、彼らにとってダンジョンがどのような意味を持つのか、それについて考えてみる事にした。



「まず第一に……元々テオドラムの国内には、ダンジョンは無かった筈だ……」



 思考の内容を確かめるかのように、助祭は言葉に出して(つぶや)く。



「……彼らは元々、必要とするダンジョン素材を『ピット』というダンジョンから得ていた筈……イラストリア国内にあるダンジョンからな」



 狩りを行なっていたのは飽くまで冒険者(みんかんじん)であって国ではない。冒険者の動きを咎め立てするのは筋違い、下手をすると藪蛇(やぶへび)という事で、イラストリア側も()(こぼ)しをしてくれていたのだろうが……



「そう言えば……イラストリアにはダンジョンが多かったな……?」


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