第二百五十四章 レプリカ問題 2.クロウの提案
そういう事かと納得し安堵するクロウであったが、生憎とそっち方面に詳しそうな知り合いはいない。職人の知り合いと言えばダイムくらいだが、遺跡からの出土品となると畑違いもいいところだろう。
それに……
「……いつだったか耳にした事がありますが、何でもドワーフは自分の趣味に走りがちで、レプリカの作製のような仕事には向かないとか」
「何? そうなのかね?」
嘗て名代の贋作者であるエメンと話していた時に、贋作者としての適性が話題になった事があった。その時に仕入れた知識である。
あの時の話題は飽くまで〝贋作者としての適性〟であったが、レプリカの作製だって似たようなものだろう。……少なくとも、共通する部分はある筈だ。
「……レプリカとしてどこまでの精度を要求するのかにもよるでしょうが、展示物として使うのなら、外見だけ似ていればいい訳です。敢えて鍛冶スキルで作る必要は無いのでは?」
「むぅ……確かに」
「仮にですが……型を取って複製するような方法で作るとなると、型取りには目の細かな素材を使う必要があるでしょう。それが粘土なら陶工、蝋なら蝋人形師になるのでは? 或いは鋳物師とか」
然もなくば、寧ろ魔術師の領分ではないか――と問い返されれば、パートリッジ卿としても頷くしか無い。
「成る程のぉ……これは儂が迂闊じゃったわい」
唸るパートリッジ卿に対して、怪訝そうな声音でクロウが問いを重ねる。
「この件に関しては御前が動くより、国に任せてしまった方がいいのでは?」
幾重にも筋の通った問いであったが、それに対するパートリッジ卿の答は、
「それはそうなんじゃが……折角の機会じゃし、自前でも複製品を作っておきたいと思ってのぉ……」
……割と稚気のある理由であったようだ。
そんなパートリッジ卿を不憫に思った訳でもないだろうが、
「……細工師の心当たりはありませんが、一つ思い付いた事が」
「何かね?」
異国出身の絵師だからなのか、これまでにも自分たちとは違った視線で打開策を案出してくれたのがクロウである。パートリッジ卿としても前のめりになろうというものだ。
「いえ……孰れこの件が公になれば、出土品の紛い物が出廻るのは必定でしょう。なら、今のうちに紛い物や掘り出し物を買い集めてはどうかと思いまして」
「ふむ?」
複製品とは少し毛色が異なるが、同系統の紛い物なら見つからなくも無いだろう。何せシャルドの古代遺跡と言えば、嘗てお宝を産出した事で知られている。その時に作られ出廻ったものが、今でもどこかに眠っているかもしれぬ。おかしな事に使われる前に、早手回しにそれを確保するというのは……
「……悪い手ではないのぉ……」
上手くすれば正真正銘の掘り出し物が見つかるかもしれぬ。或いは、万が一にもその「作者」に関する情報が得られれば、今回の目的にも適うのではないか。
(……もし仮に手頃なものが見つかれば、複製品じゃと言い募って何かに使う事もできよう。……例えば、モルファンに友好の証として贈る――とか、のぉ)
意外に腹黒い事を考えているパートリッジ卿であったが……何もクロウの方とて、聖人君子的な考えからこんな話を言い出した訳ではない。
(……首尾好くお宝探しが実現すれば、シャルドの廃屋で拾った盗掘品を押し付けてやれる。オッドか誰かに頼んで、道楽者のハーコート卿辺りに掴ませてやるか……)
互いに腹黒な策を思案している二人であった。




