第二百五十三章 シャルド 3.雪祭り
さて――という事で、噂の雪祭りの会場にやって来たクロウであったが、
「これは……思っていたよりも見応えがあるな」
問題の会場というのはどこあろう、嘗てクロウが雪像を作ったのを切っ掛けとして、宿の泊まり客が挙って「雪坊主のジャック」を作り並べた、あの広場であった。
今回やって来たそこには「雪坊主のジャック」だけでなく、様々な雪像が立ち並んでいる。その中には、思わず見蕩れるような出来栄えのものもあるのだが……
「しかぁし、まぁだ甘ぁい!」
何れも小振りなものばかりで、北海道の雪祭り――の中継放送――を見てきたクロウの目には、些か物足りないのも事実であった。
ここは一つイラストリアの者たちに、雪祭りの何たるかを教えてやらねばなるまい。
――と、妙な使命感に囚われたクロウは、そこで徐に会場の辺りを見回した。
「充分な広さのスペースが無いな……」
クロウが些か不満げに呟いたところで、その呟きに応じた者がいた。懐に隠れて護衛を務める、ライとキーンの二体である。
『マスター、何を作るんですか?』
『大っきぃものなんですかぁ?』
日本語にはまだ不慣れな二体だが、それでも思念の動きを通して、クロウが何に不満を持っているのかぐらいは朧気に判る。
『こうして見ると、並んでいるのはこぢんまりとしたものばかりだからな。ここは一つ、本場の雪祭り、本物の雪像というものを教えてやらんとな』
札幌の雪祭り――の放送――では、巨大な雪像が観光客の注目を集めていた。ああいう大物を作るのには人数が要るから、クロウ独りで作り上げるのは無理だろうが……
『ダンジョンマジックを使えば、できるんじゃないですか?』
『そこまでやったら、もう目立つどころか不自然だろう』
『目撃されたらぁ、困りますよぉ』
――雪祭りの会場がダンジョンになるなど、不自然を通り越して超自然である。
『目撃者を避ける事も考えると……中心から少し外れた場所が適切か』
雪像が作られていない場所ならスペースもあるし、材料の雪も残っているだろう。
クロウはそう思案すると、木立が観光客の視線を遮っている一画に足を向けた……
・・・・・・・・
翌日、立ち並ぶ雪像を上機嫌で見て廻っていた観光客の一人が、木立の向こうに何か見えたような気がして足を運ぶと……
「……何だこれは……?」
こちらを威圧するかのように立っている、体高三メートルほどのゴ○ラの雪像に迎えられる事になった。
当然の如く会場は大騒ぎになったのであるが……中で一際衝撃を受けていたのが、雪祭りの運営委員会の面々であった。
単に雪人形を並べただけのイベントに手詰まり感を抱いていたところ、その閉塞感を打破する……どころか吹き飛ばすような代物が降臨したのであるから、これは平気でいろと言う方が無茶である。
こぢんまりとした雪人形を嘲笑うかのように聳えるその巨像は、雪祭りの将来像を暗示しているかのように思えた。




