第二百五十三章 シャルド 2.屋台の親爺が語るシャルド事情
「へぇ、そういうもんですか」
「おぉよ。それまで発掘作業の監督はしても宿の整備なんかにゃ渋ちんだったお上が、打って変わったように宿やら道やらの整備をおっ押っ始めたんだ。こりゃ何かある――って考えるのが当然ってもんだ」
「ははぁ」
「んで――そこへモルファンのお姫様がこの国へお越し遊ばすって話を聞きゃ、こりゃ一に一を加えるより簡単な算術だぜ」
「成る程」
偶々立ち寄った屋台の親爺がお喋り好きな上に事情通、おまけに情報の分析能力にも見るべきものがあるという次第で、俺たちは面白い話を色々と聞く事ができた。
「古代遺跡とやらの発掘現場だって同じよ。いきなり見廻りが強化されりゃ、こりゃ結構なお宝がめっかったらしい……って、こりゃガキだって気付くわな」
「成る程」
……御前たちの機密保持策は、見事に裏目に出たって事だな。
「その古代遺跡だがな、お上はどうも五月までに目処を付けてぇみてぇだぜ。こりゃ、現場で働いてるやつらの話なんだがな」
「ほほぉ……五月と言うとやっぱりあれですかね。モルファンの王女殿下の留学話」
「だろうなぁ……発掘現場を見せたくねぇのか、とっ散らかってるのを見せたくねぇのか、そりゃ判らねぇが」
「両方じゃないですかね。……それより、古代遺跡の発掘が手仕舞いになったら、シャルドの観光はどうなるんですかね。やっぱり封印遺跡に一本化ですか」
「いやぁ……あっちもなぁ……お上はあれを何かに使おうと画策してたみてぇだが、立ち消えになった節があるからなぁ……」
……気になったので少し水を向けてみたら、面白そうな話が転がり出てきたな。
「それもモルファンの件に絡んで?」
「どうだかなぁ……利用計画が持ち上がったなぁ、お姫様の話が持ち上がるより前らしいんだが……それがポシャったらしいなぁ、つい最近らしいんだわ。直接関係してんのかって訊かれると……どうだかなぁ……」
……確かシャルドの封印遺跡を、緊急時の救難拠点に使おうという計画があったっけな。緊急事態の想定が甘過ぎたんで、もっと大規模な倉庫群を整備すべきだと指摘しておいたんだが……計画自体がポシャったのか。いや……拠点として整備する計画を、モルファンに知られるのを嫌ったのかもしれんな。
抑、王国の想定には結構いい加減なところがあったからな。緊急事態の拠点を謳っておきながら、その「緊急事態」が何を指すかも決まってなかったみたいだし。
状況を限定するのを嫌ったのかもしれんが、戦乱と疫病と火災とスタンピードじゃ、必要な備え自体が違うだろうに。
「抑の話、ここシャルドの管理を誰に任せるかってのが、まだ決まってないからな。国の直轄にして代官を置くって話が出てたんだが……」
……その話は聞いた事がある。バートが訊き込んできたんだったかな。
「ところがモルファンのお姫様がお越し遊ばすって話だろ? 決まりかけてた代官の人選も、そのせいで二転三転してるって話だ」
「へぇぇ……確かに大変そうですもんね」
「ま、こっちはそのうち片が付かぁな。あ? 何でだって? そりゃお前、モルファンにゴタゴタを見せる訳にゃいかねぇんだからよ」
「成る程」
この親爺、結構ものが見えてるな。もう少しネタを訊き込んでおきたいが……注文を追加するか。
「毎度あり……そう言やお上の態度も奇妙だって、これも噂になってるな」
「ほぉ……どういう事です?」
追加注文をした途端に新ネタをぶっ込んできたか……この親爺も中々強かだな。
「いやな。古代遺跡の方はあっさり発掘を許可していながら、封印遺跡の方は未だに立ち入り禁止だってのがな」
「ははぁ……訝ってる連中が?」
「おうよ。まぁ、お上の方も古代遺跡の発掘は一応進めているみてぇだが、古代遺跡みてぇに作業員を投入してねぇもんで、中々捗ってねぇみてぇだ。ここにやって来る連中も噂してるぜ。よっぽど人に見せたくねぇものがあるんじゃねぇか――ってな」
まぁ……古代遺跡には色々と残してきたからな。それが物議を醸しているのかもしれん。
「そうすると……封印遺跡内部の一般公開は望めませんか」
「まぁ、当分は無理なんじゃねぇか?」
「そうなると観光客は? あぁ、古代遺跡の発掘が終わった後の事ですが」
「それを俺らに訊かれてもなぁ……。ただな、新年祭と五月祭の頃はバンクスに人が集まるから多分大丈夫だ。問題はそれ以外の時期なんだが……まぁ、地元が中心になって、何かの催しでも立ち上げるのが一番じゃねぇかなぁ。丁度今やってる雪祭りみてぇによ」
雪祭りか……そっちも描いておくようにって、ボルトン親方からも言われてるな。
「この後でそっちにも寄って見る事にしますよ」
「おぅ、一見の価値ありってやつだぜ」
「そりゃ楽しみだ……もう一本貰えますか」
「毎度……まぁ、あれだな。今回は古代遺跡の方で何か掘り出し物があったみてぇだから、そっちでどうにかなるんじゃねぇのか?」
「なりますかね? どうにか」
「まぁなぁ……お上は隠しておきてぇ様子だが、そろそろ噂も高まってきてるしなぁ。 隠し通すのは無理なんじゃねぇか」
「成る程……ご馳走様」
「おぅ、また寄ってくんな」
そこそこ散財させられたが、それに見合うだけの面白い話を聞く事ができたな。




