第二百五十三章 シャルド 1.雪景色
「こりゃまた……随分と様変わりしたもんだ」
定期便の乗合馬車――本当にこんなもんが出てるんだな――から降りた俺が思わず呟いたのを受けて、懐のライとキーンが念話を返してくれる。
『昔日の面影、更に無し――ってとこですね、マスター』
『見違えそぅですぅ』
パートリッジ卿の嗾しに乗ったというか、ボルトン親方に丸め込まれたというか……冬景色に加えて雪祭りまでスケッチする羽目になった俺がシャルドを訪れたのは、新年祭が終わってから三日目の事だった。
嘗て廃村だった頃のシャルドの印象が強いこの身には、今のシャルドの姿は想像を絶するもので……
『参ったな……大まかな位置は御前とミケル君から聞いてるが……』
肝心の発掘現場へ辿り着けるかどうかが、いきなり怪しくなってきたな。
ま、大通りの向きから判断すれば大体の方向なら判るし、後はそっちの方向へ進んで、適当なところで人に訊けばいい――って、ミケル君から実用的なアドバイスを貰ってるからな。それに従うのが一番現実的か。
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てな事で、やって来ました発掘現場。
雪で発掘が中断されている今なら、余計な人混みに邪魔される事無く、美しい雪景色をスケッチできるんじゃないかと当て込んで来た訳だが……
『いきなり予想を覆されたな』
『何だかんだで、作業している者がいるみたいですね、マスター』
『あちこちぃ、穿り返されてますぅ』
保守とか点検とかのためだろうな。発掘現場を見廻ってる者がいるみたいで、その足跡が点々と残されている。
考えてみれば、嘗てお宝が出土したシャルドの古代遺跡、その発掘現場なんだ。夜陰に紛れて盗掘を目論む不心得者が出ないとも限らない。随時見て廻るのは当たり前か。
『ますたぁ、どぅしますぅ?』
確かに、当初思い描いていた風景とは違うが、
『まぁ、小汚く穿り返されてる部分は戴けないが、そこに目を瞑れば……』
これはこれで趣があるしな。多少の瑕疵は絵にする時に修正すればいい。……キーン……これは捏造じゃない。画家の心の目で見た風景ってやつなんだ。そこを履き違えたりしないように。
ま、人混みが無い分、地形などがはっきり判るだろうって予想は当たってたからな。今スケッチしておけば、五月頃に発掘の光景を描く時にも参考にできるってもんだ。発掘中の作業員に、絵の邪魔だから退いてくれ――なんて言えんしな。
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あちこち場所を変えてスケッチしていて、気が付いたらそろそろ正午だよ。太陽が中天高く昇っていた。昼飯時だな。
ミケル君の話だと、観光客相手の屋台が出てるから食事には困らないって事だったから、それを当てにして弁当は持って来てないんだが……大丈夫そうだな。ま、ここへ来る途中にも、屋台は結構目にしてたし。
適当な屋台で適当なものを買って、そいつで腹を膨らせるか。




