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第二百五十一章 新年祭(四日目) 9.ヴィンシュタット~知育玩具~(その2)

「……これは?」



 色とりどりの正方形の紙を目にしたハクとシュクは、その色合いに目を奪われながらも、クロウの意図を掴みかねていた。



「あぁ、これだけじゃ単なる紙切れでしかないんだがな、これをこうやって……」

「「――!!」」



 そう言いながら、クロウは正方形の紙を手際良く折って、鶴や蛙、兎や兜、薔薇(ばら)の花や帆掛け船などを作り出していく。クロウが()り成す折り紙の妙技に、ハクとシュクの二人は勿論、他の面々も瞠目(どうもく)しっ放しであった。



「子供の遊びと言えばそうなんだが……こういう手遊びは子供の知育……知的能力の向上にも寄与するみたいでな。ま、ちょっとした暇ができた時にでも、時間潰しのつもりでやってみたらどうかと思って持って来た。あぁ、参考書も一応用意してきた」



 そう言ってクロウが取り出したのは、日本で購入してきた折り紙の本である。もはや説明文を翻訳するのも諦めたらしく、買って来たそのままを持ち込んでいる。言葉の違いについては、〝外国の本だから〟という強弁で押し通すつもりのようだ。

 強いて言えば、写真ではなく挿絵の本を選んだ辺りが、クロウ精一杯の配慮であろう。


 クロウが開いて見せた折り紙の本、そこに載っている見本の数々に、ハクとシュクの二人は目を輝かせているが……



「……ご主人様、この……紙でございますが?」



 ソレイマンは折り紙そのものの異質性に気付いていた。いや、ソレイマンだけではなく、マリアとハンクも微妙な顔をしている。

 ――が、そんなところに気を回さないのが、クロウのクロウたるところである。



「あぁ、折り紙専用の紙だな。色が付いているから見映えが良いだろ?」

「いえ……それはそうなのですが……そうではなくて……」



 頭痛を(こら)えかねた様子のソレイマンが訥々(とつとつ)と説明する。多彩な色の事を別にしても、正確に同じ大きさ厚さの正方形をこれだけ揃えるというのがまず普通ではない、少なくとも庶民向けではない――と。



「……そうなのか?」



 面喰らった様子のクロウが(かたわ)らのマリアやハンクに問いかけるが、彼らも黙って首を振るばかり。後でペーターやダバルにも確認したが、揃ってソレイマンの指摘を肯定した。


 (そもそも)の大前提として、こちらの世界では紙は未だに貴重品である。子供の遊びに費やすようなものでは断じてない(・・)

 それを――〝たかが子供の遊び用に(あつら)えられた専用の用紙〟などを持ち込んだ訳だから、一同がうち揃って目を()くのも当然であった。



「そうだったのか……」

「二人の教育に良いとのお話でしたから、屋敷内で遊ぶ分には問題無いでしょう。しかし、屋敷の外に持ち出したり、世間話で漏らすような事はさせないようにいたしませんと」

「要はいつかの『知恵の輪』と同じという事です」



 ――とまぁ、多少の認識の()れ違いはあったが、クロウの意図は正しく()んでもらえたようだ。この男(クロウ)の場合はこれが平常運転だし。



(『いや……そういう納得のされ方をされるというのも納得できんのだが……』)

(『まぁ、クロウの事だし?』)

(『妥当な評価というやつじゃろうの』)



 ――シャノアと爺さまのコメントに、どこからも反論の声は上がらなかったのであった。



 ちなみに、居合わせた一同に一番大人気だったのは紙飛行機――カイトたちを巻き込んでの大熱戦が繰り広げられた――であり、次点で紙鉄砲――紙玉鉄砲ではなく、強く振って音を出すやつ――であった事を付言しておく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 定番のやらかし。 [一言] カイト専用のハリセンが、 常備されることになりそうだなぁ。
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