第二百五十一章 新年祭(四日目) 6.マナステラ~ノンヒュームたちの事情~
今回は説明回です。
さて――マナダミアでドワーフたちが話していた内容について、この場を借りて少しばかり補足しておこう。
マナステラは近隣諸国の中では最大のノンヒューム人口を擁しており、そこに住まうノンヒュームたちにも、自分たちこそが最大多数、もしくは主流という自負がある。……いや、あった。
――その自負を根底から脅かしたのが、ここ暫くのイラストリア王国、正確にはそこに住まう同胞の動きであった。
何れかの伝手によって、他所では得られぬ様々な物品を得られた、もしくは、他所では知り得ぬ知識を与えられた。
……これだけならさして問題では無かった。少しばかり悔しい想いはするが、言ってしまえばそれだけである。
しかし――マナステラのノンヒュームたちを凹ませたのはそれではない。
何処からか入手した上質の砂糖とビールを武器に、イラストリア在住の同胞たちは自分たちだけで、怨敵・テオドラムに対する作戦行動を執り始めたのである。
これが、ノンヒュームの勢力を糾合してテオドラムに真っ向から立ち向かう……というのであれば、自分たちマナステラのノンヒュームもそれに参戦したであろう。しかしながら、イラストリアのノンヒュームが目下テオドラムに対して仕掛けているのは経済戦。それも即決を狙うようなものではなく、ジワリジワリと嫌らしいくらいに、一歩一歩テオドラムを追い詰めている。
……自分たちにはどうにもできない領分である。一体誰から入れ知恵されたのか。
それでも、せめて宣伝戦の一助なりともと考えて、マナステラのノンヒュームたちもテオドラムの悪評――最近のヒットはシュレクにおけるテオドラム兵の暴虐ぶりらしい――を積極的に流す程度の事はしている。
なぜかこの件では人族の冒険者たちも協力的で、積極的に噂を広めてくれているが。何しろ冒険者というのは動いてナンボ。長距離を移動するのは当たり前で、国境を越えて移動する者も珍しくはない。そういった冒険者たちが、行った先で挙ってテオドラムの悪評を並べ立てるのであるから、噂の広まるのは早かった。
糅てて加えて、この国にいるエルフたち――感激屋で詩作などに才を発揮する者も多い――の中には吟遊詩人に伝手を持つ者もそこそこおり、彼らを通じてもテオドラムの悪行が広められていった。
――それだけには留まらなかった。
考えてみれば当たり前の事ではあるが、ノンヒュームの職人たちは自分たちの製品がテオドラムに流れるのをよしとしないようになっていたのである。これはノンヒュームの職人――鍛冶師の他に錬金術師や薬師も多い――たちが申し合わせてと言うよりも、銘々がそういう行動を採り始めただけであったが……その結果は無視できぬ影響を及ぼすに至った。
元々テオドラムでは、ノンヒュームの製品を購入するような者は多くなかったが、それはテオドラムがノンヒュームの影響からフリーである事を意味しない。
テオドラムと取引のある商人に対しては、ノンヒュームたちが好い顔をしない――という風評が広まると、まず小規模の商人などが、テオドラムとの商取引に及び腰になり始めた。その結果、テオドラム向けの商流が少しずつ細くなっていったのである。
この辺りの動きは、嘗てヴァザーリやバレンで見られたのと同じ経過をなぞっている。
この一連の動きについては、既に連絡会議も確認しているが……要するに、巨大な農業生産力をバックにして貿易でその存在感を発揮していたテオドラムは、末端部からではあるが、その通商活動に支障を来すようになり始めていたのである。
――シュレクを除いては。




