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第二百五十一章 新年祭(四日目) 4.マナダミア~ドワーフたちの会話~(その2)

 ここで、「連絡会議」の(きも)()りの(もと)に、ドランの(とう)()たちが試作している酒の事を述べておこう。


 既に度々述べてきたように、ドランの村で行なわれているのは熟成酒と蒸溜酒の試作である。熟成酒に関しては、その大前提となる加熱殺菌法の目処(めど)が――イラストリア王国酒造ギルドの献身的な協力もあって――立ってきたところだが、こちらは(そもそも)酒の長期熟成を目指した技術なので、新年祭や五月祭での一般販売にはそぐわない。


 では、期待できるのは蒸溜酒の方かと言えば……こちらはこちらで別の問題があった。


 (そもそも)の話として、蒸溜酒は醸造酒を蒸溜する事で得られるものであるから、歩留まりは醸造酒に較べるとずっと悪くなる。言い換えると、大量の原料を必要とする上に、蒸溜を行なうためには燃料が必要になる。要するに原価が高くなるのである。



(「……っちゅう訳でな、手間暇と金がかかっておる訳じゃから、気楽にがぶ飲みする事はできんらしい。まぁ、酒精もそれだけ強いっちゅう話じゃが」)

(「うむぅ……」)



 蒸溜酒が抱えるもう一つの問題が熟成である。

 ウィスキーにしろブランデーにしろ、蒸溜直後は荒々しさと刺々(とげとげ)しさがあって――少なくとも一般の人間の感覚では――飲めたものではない。それを一年、三年、五年……と貯蔵して熟成させる事によって、よりまろやかで芳醇な味わいとなるのである。



(「(わし)らの口に入るのは、ずっと先の事になるという訳か……」)



 悲哀と諦観(ていかん)()()ぜにしたような表情で(つぶや)くが……



(「いや、それがな……一種の裏技みたいなもんがあるらしい」)

(「何じゃと!?」)



 クールダウンからヒートアップへと、短時間で目まぐるしい感情の上がり下がりを経験したせいか、そろそろ抑えが効かなくなっている相方を、訳知り顔のドワーフが何とか沈静化に成功する。



(「ほれ、この五月頃に、モルファンのお嬢……お姫様がイラストリアにお越しあそばすっちゅう話があるじゃろ?」)

(「うむ? ……そう言われればそんな話を聞いたような憶えも……じゃが、それが何だと言うんじゃ?」)



 自分が知りたいのは酒の事であって、モルファンの王女の事ではない。それとも何か? その王女が酒かその技術を携えてやって来るとでも言うのか? そういう事なら話は別だが……



(「いや、そうではのぅて……要するに、酒を熟成させる時間が無い訳じゃ。にも(かかわ)わらず、イラストリアの(とう)()たちは、モルファン歓迎のパーティに、新たな酒を供出する事を承知した」)

(「うむ……? 言われてみれば確かに……」)



 大国モルファンは北国であり、上から下まで度数の高い酒は大歓迎という国民性である。であるからして、そこに供するための酒というのも、度数の高い酒であろうというのは察しが付く。……確かにイラストリアを訪れるのは「未成年の王女」だが、随行員たちは(あまね)く成人しているであろうから、〝最大多数の最大幸福〟の原理によって、度数の高い酒が出されるというのは間違っていない……筈だ。


 現在熟成を進めている試作品はあるだろうが、その出来はまだ不明のままな筈だ。ギリギリまで熟成を進めるとすれば、いざ開封した時になって熟成失敗……などとなっていれば取り返しが付かない。その危険を冒してまで、イラストリア国王府からの依頼を受ける理由は無い筈。

 ……となると、既にそこそこの数の熟成酒を手にしているか、もしくは熟成酒以外のカードを握っている筈……


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