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第二百五十一章 新年祭(四日目) 2.エルギン~冒険者ギルド~(その2)

 成る程――と、エルギンの男は、声に出さずに(ひと)()ちる。

 モローの冒険者ギルドは、現時点では一応エルギン冒険者ギルドの監督下にある。「双子のダンジョン」と「封印遺跡」の集客効果によって、寂れていたモローの町が再び活況を呈するまでは、モローの冒険者ギルドは長らく閉鎖されていたのである。その間の業務はバレンの冒険者ギルドが代行していたのだが、バレンの町がノンヒュームによる報復を受けて没落してからは、あそこの冒険者ギルドにも(かん)()(どり)が鳴くようになり……今やモローとバレンの冒険者業務は、エルギンが一手に引き受けている状況にある。


 そういった事情に(かんが)みれば、モローのダンジョンの件を調べるに当たっても、(あらかじ)めここエルギンの冒険者ギルドに挨拶(あいさつ)して筋を通しておくというのは、これは納得できる話である。だが……



「……マナステラ(おくに)では、どうしてそこまでダンジョンの事を気にしておいでで? 『百魔の洞窟』の状況は安定していると、先程伺ったように思いますが?」

「あぁ、それは……」



 マナステラの冒険者ギルド職員が語ったのは、クロウが聞いたら微妙な表情を浮かべるであろう話であった。



「成る程……『ダンジョンベルト仮説』ですか……」

「色々と突っ込みどころの多い仮説なのは承知しています。ただですね、このところ各地でダンジョンが出現ないしは活性化しているのも事実。そしてここに、そういったダンジョンの動きを説明しようとする仮説があり、その仮説では〝イラストリアからマーカス・マナステラに至る……或いはその先にまで延びる範囲でダンジョンが活性化している〟と述べられているとなると……()して『百魔の洞窟が』、その『活性化』に同調するような動きを見せたとなると……」

「……お国としても看過は出来ぬ――という事ですか」

「そのとおりです」



 「百魔の洞窟」で起きたという擬似的なスタンピード騒ぎの事は、エルギンの男も耳にしている。スタンピードが発生するには幾つかの理由があるが、その中にダンジョンの巣分かれやダンジョンの崩壊に伴って起きるというものがある。

 しかし、「百魔の洞窟」は依然健在だというから、ダンジョンの崩壊が起きた訳ではない。となると、ダンジョンの巣分かれが発生した可能性が高くなるが、これは先程の「ダンジョンベルト仮説」にも整合するだけに、マナステラ側としては到底無視できぬ話であろう。



「しかし……こちらが仄聞(そくぶん)したところでは、その〝スタンピード〟は掻き消したように姿を消したとか?」

「そのとおりです……」



 単なる誤解や勘違いであるのならいいが、冒険者ギルドが感知しないところで既にダンジョンが出来上がっているとすれば……これは剣呑(けんのん)どころの話ではない。



「聞けばモローの『双子のダンジョン』は、いつの間にやらそこに出現していたとか。そういった意味でも、何かの手懸(てが)かりになるかもしれないと……まぁ、(わら)をも掴む想いでやって来た訳なのです」

「成る程……」



 そういった事情であれば、「ピット」や「封印遺跡」よりも「双子のダンジョン」に興味を示すのも、解らないではない。恐らくは「災厄の岩窟」と「(いざな)いの湖」を擁するマーカスにも、別の者が事情を訊きに向かっているのだろう。



「あとですね……実はエルギン(こちら)に伺ったのは、他の事情もありまして……」

「ほぉ?」



 (いぶか)しげに、それでいて興味深げに眉を(ひそ)めたエルギンの男に、マナステラから来た男は身も蓋も無い裏事情をカミングアウトしていく。明け透けに。



マナステラ(わがくに)の偉いさんたちは、イラストリア(おくに)のノンヒュームたちの活動が気になるようでしてね。新年祭でノンヒュームが出すという新製品がどういうものなのか、その目で確かめてこい――というのですよ」

「それはまた……」



 そんな両名の前には、空になった皿が置かれている。少し前までラップケーキが載っていた皿だ。……〝新年祭でノンヒュームが出した新製品〟は、既に味も含めて確認済みとなっている訳だ。



「……先日に本国のギルドと連絡を取ったところでは、マナステラでも同じものが売り出されているそうですから、お偉方も撫で下ろす事でしょう」

「それは……何と言うか……」



 複雑な笑顔を浮かべるマナステラの同業者に、こちらも複雑な表情を浮かべるしか無いエルギンの男なのであった。


本日21時頃、死霊術師シリーズの新作「オーガの像」を投稿する予定です。宜しければご笑覧下さい。

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