挿 話 マナステラ王城(その1)
こちらの世界で新年祭が始まる少し前、マナステラでは王城の一室で国務会議が開かれていた。議題は例によってノンヒュームであるが、この日はいつもと少々趣を異にしていた。後追いで事態の対策に翻弄――これが常態というのも情け無い話だが――されるのではなくて、より根本的・本質的な問題を討議していたのである。
――曰く、イラストリアのノンヒュームだけが、ああも活躍しているのはなぜか。
「ノンヒュームの人口自体は、寧ろマナステラの方が多い筈だ。なのに、ここ暫くの活躍は全て、彼の地のノンヒュームだけが引き起こしている。それはなぜか?」
――今更のようだが、重要な問題ではある。
殊に、このところイラストリアの後塵を拝し続けているマナステラとしては、その秘訣は是が非でも知りたいところであろう。
「……イラストリアで何かを得た、或いは何かに出会った――という事か?」
「知識か? 例えば古代文明の――であるとか?」
――安直な答ではあるが、まぁ、妥当な発想と言えばそうである。ラノベでも定番の展開だし、知識の大元が古代文明ではなく、二十一世紀日本人であるとすれば、正解と言えなくも無い。
ただし、その――遙か斜め上方向に非常識な――正解に辿り着くのは、基本的に常識人揃いの国務卿たちには難しかったとみえて、
「……そう言えば、イスラファンでそういう話があったな。太古に封印された何かが現れたとか、古文書が見つかったとか」
――こちらの話が思い返されたのも、或る意味で仕方のない事であろう。
「だが、イラストリアでそういう話は聞かんぞ?」
「封印遺跡という代物はあるが、あれを発見したのはノンヒュームじゃない。王国軍の兵士だった筈だ」
シャルドの遺跡の発見は、ノンヒュームたちがビールと砂糖を売り出す一年前。時系列的には平仄が合っているが、生憎と遺跡を発見したのはイラストリアの兵士たち。その直後にイラストリア王国が接収したので、ノンヒュームが関与する暇は無かった筈だ。
「その後の王国による調査でも、発掘より前に侵入を受けた形跡は無かったという」
「とすると、この案は没か……」
没にはなったが無駄にはならなかったようで、時系列という観点から問題を眺めていた国務卿の一人が、興味深い――クロウに言わせれば「とんでもない」――事を言い出した。
「……そう言えば……イラストリアのノンヒュームが目立った活躍を始める二年ほど前に、イラストリアでダンジョン騒ぎがあったな?」
――双子のダンジョンの初陣の事を言っているのなら、それはクロウがこちらに現れた年の六月、ノンヒューム活性化の二年前である。確かに時系列的には問題が無いように思えるが、しかし……
「いや待て。時系列的にはそうなっているが、あのダンジョン騒ぎにノンヒュームは関係していない筈だぞ?」
「だが……言われてみれば件のダンジョンがあるのは、丁度エルギンとシャルドの中間だ。この位置関係に何らかの意味は無いのか?」
「むぅ……」
「ノンヒュームが連絡会議の事務所を置いているエルギンと、古代遺跡が発掘されたシャルドか……」
「悩ましいと言えば悩ましいな……」
――偶然である。
「そう言えば……」
「まだ何かあるのか?」
「いや……イラストリアの貴族がノンヒュームに返り討ちにあったという話、あれもこの近くではなかったか?」
「言われてみれば……確か、バレンとかいったな」
「待て……成る程。確かに位置関係はそうなっているな」
――重要な事なので繰り返すが、偶然である。
「ふむ……ノンヒュームが動いた痕跡が無いというのは、取り敢えず忘れよう」
「うむ。事が事だけに、彼らも慎重に姿を隠していた筈だ」
――濡れ衣である。
「しかし……話を戻すがそれはつまり、ダンジョンがノンヒュームに手を貸したという事か?」
拙作「転生者は世間知らず」、書籍化記念SSっぽいものを更新しています。宜しければご笑覧下さい。




