第二百五十章 新年祭(三日目) 6.リーロット~リーロット振興計画余波~【地図あり】
不機嫌そうに黙りこくっているザイフェルを横目に見ながら、ラージンは改めてリーロットの整備計画について思いを馳せていた。
肥大膨張する「ノンヒュームの露店」に押される形で、泥縄的に広場を拡張しただけかと思っていたのだが……案に相違して確りとした展望の下に、整備開発の計画が立てられている。最初から訪問客や滞在客が過ごし易いように考えて、町割り自体を見直しているのだ。
(これは……下手をするとヴァザーリどころか、マルクトまで客を奪われかねんぞ。ちっぽけな宿場町だった筈が、ここ数年の間に一気に化けた……)
ヤシュリクの町がイラストリアへの門戸としての価値を失う事は無いだろうが……
(……アムルファンのソマリクからマルクトへ、そこからヴァザーリを経由せずに、テオドラム側からリーロットへ……その街道が開発される可能性も……考えておいた方が良いのか?)
……そう考えてみると、先日にヴァザーリ当局から哀願されたヴァザーリ救済の措置、あれがまた別の重要性を持つように思えてくる。
(いや……肝心のテオドラムが、ヴァザーリ支援に動いている間は……その目は小さいという事か……?)
テオドラムにしてみれば、何も苦労してヴァザーリ再建に動かなくても、マルクトが繁栄した方が好都合の筈。ヴァザーリを見捨てて、代わりにニルへの街道を整備するという案も……
(……いや……それはそれで、大規模な予算が必要になるか。今のテオドラムには厳しいかもしれんな……)
これに関しては先走りせず、テオドラムをはじめとする近隣諸国の動きを調べてからの方が良いだろう。
そう考えを纏めたラージンであったが……同じような感想を抱く者は他にもいた。他ならぬニルの町の冒険者ギルド、そこのギルド職員である。
(……ニル再生の要となるリーロット、その新年祭の様子を見てこいと言われてやって来たんだが……これは……想像していた以上か?)
拡張著しいリーロットの町には、テオドラムからも作業員という名目で冒険者たちを送り込んでいる。勢い、冒険者たちの取り纏めを行なう冒険者ギルドとしても無関心ではいられないのだが、それ以上に――
(……この調子でリーロットが栄えれば、その最寄りの町であるニルも、延いてはテオドラムの中央街道も重要性が一気に増すぞ? ……いや、それより先に、マルクトからニルまでの街道が整備されるのか?)
話がどちらに転んでも、中継地としてのニルの町の価値は高まる事になる。のみならず、
(……以前にギルマスが話していたように、マルクトとグレゴーラムを結ぶ街道が整備されるような事になれば……)
今でこそ閑古鳥の合唱場と化しているニルの町だが、そうなれば一気に息を吹き返すだろう。……いや、それどころか、マルクトに並ぶ商都として繁栄する可能性だって無いとは言えない。
(……上の方が何を考えているのかは知らないが……ニルの住人としては、リーロットの町が繁栄する事、それが望ましい展開だという事か……)




