表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1346/1812

第二百四十九章 新年祭(二日目) 2.裏話~「ラップケーキ」縁起~(その1)

 ここで、ノンヒュームとクロウが生み出し、ルパが()くまで執着している〝ノンヒュームの新作菓子〟の正体を明かしておくと――



(要は今川焼き――註.大判焼き・回転焼き・二重焼きなどとも――なんだよなぁ……)



 〝新年祭では温かい菓子を出したい〟――というノンヒュームたちの意向に沿う形でクロウが提案したのは、現場での量産に向いた今川焼きであった。器具と(かまど)を新規に(あつら)える必要はあるが、あれなら客の目の前で焼き上げて、その場で()ぐに出来たての熱々(あつあつ)を出す事ができる。実演販売の面もあるから、集客力は万全だろう。(むし)ろ集め過ぎる危険を懸念するべきかもしれない。

 中に入れる(あん)にしても、小豆の黒餡――これにも粒餡(つぶあん)()(あん)がある――だけでなく、白隠元(しろいんげん)による白餡や青大豆による(うぐいす)(あん)胡麻(ごま)(あん)、果てはカスタードクリームやチョコレート・キャラメル・チーズクリーム・苺クリーム、趣向を変えてポテマヨ・ハンバーグ・ソーセージ、果てはキャベツ炒めやカレーなどの具材だって考えられる。派生型は無数にあると言えよう。


 そういう判断もあって、クロウは今川焼き系の菓子を提案したのであったが……



・・・・・・・・



『小麦粉の生地(きじ)(あん)(くる)んで焼く――ですか……』



 魔導通信機の向こうから戸惑ったような声が返って来て、クロウは首を(かし)げる事になったが……()ぐにその理由が判明した。



『いえ……お話からすると、生地(きじ)そのものはパンケーキのそれと似ているようですが……』

『パンケーキの中に何かを(くる)み込むってなぁ、こりゃ初耳なんで……』

『蜂蜜などを上からかける事はあるのですが……』

『もしくは、二枚のパンケーキで具を(はさ)む――とかは』

「成る程な……」



 どうやら(まん)(じゅう)系の菓子は、こちらでは一般的ではないようだ。なら、提供できる菓子のバリエーションは幾らでも増える――と、密かに(ほく)()()みかけたクロウであったが……事はそう単純ではない事に気が付いた。


 二十一世紀日本において数多(あまた)のバリエーションを誇る「(まん)(じゅう)」であるが、考えてみればその多様性の元となっているのは、皮の材料・(あん)の種類・調理法による差異である。

 そこでまず皮の材料を取り上げると、日本では普通にある米粉の生地がこちらでは使えない。ソバは一応あるようだが、そば粉はそれほど普及しているものではなく、どちらかと言えば救荒作物的な扱いらしい。菓子の原料として受け容れられるかどうかは未知数である。山芋の類はあるのかもしれないが、少なくともクロウは見かけた事が無いように思う。それほどメジャーな食材ではないとすると、量を確保するのは難しそうだ。……となると、皮は小麦粉の皮にほぼ限定される。要するに「今川焼き」と同じである。

 (あん)については多種多様を期待できるが、これとて「今川焼き」と変わるところは無い。

 残るは調理法であるが、これは焼くか蒸すかを選ぶ事ができる。これでヴァリエーションを稼げるか……と思ったクロウであったが、待て(しば)し。


 (およ)そ「(まん)(じゅう)」と呼ばれるもののレシピをネットで検索してみたところ……今川焼きに較べて手数を要するような気がしたのだ。とてもの事に、殺到する群衆を前にその場で作って()(さば)く……というような芸当はできそうにない。

 ならば事前に作り置くしか無さそうだが……確か(まん)(じゅう)の賞味期限は三日か四日くらいだった筈。保存料やら真空パックとやらを駆使すれば、もう少し延ばす事も出来そうだが、こちらの世界にそんなものは無い。冷凍保存もできるようだが、解凍に失敗すると台無しになりそうな気がする。他にはマジックバッグという手もあるが、逆に言えばマジックバッグが必要という事になり、当然経費が発生する。


 以上のあれこれを考慮すると、作り置きを遠くから運んで来るのは難しいという事になる。ならばコンフィズリーショップなり駄菓子屋なり、既存の店舗で製造直売する一手だろうか。保管にマジックバッグを使うとしても、高級菓子として売るのなら、経費を上乗せする事もできそうだ。これしか無いかと思われたのだが……()く考えるとこれにも問題があった。設備である。

 仮にも店頭レベルでの販売となると、商品は(しか)るべき数を揃える必要がある。となると、例えば家庭用のオーブンでちまちま焼くなどしていては間に合わない。専用の(かま)が必要になろうが……今現在のコンフィズリーショップに、パン焼き窯を追加するようなゆとりは――敷地面積と人員の両方ともに――無い。蒸し饅頭の場合はどうかと言えば、やはりそれなりの(ちゅう)(ぼう)を必要とする上、「蒸す」という作業の性質上、不可避的に水蒸気すなわち湿気が発生する。菓子店として好ましい状況ではない。


 うぬぅと考え込んだクロウの耳に、ホルンからの無邪気な問いかけが届く。



『それで……この菓子は何という名前なのですか』

「名前か……」

拙作「ぼくたちのマヨヒガ」、本日21時に更新します。宜しければこちらもご笑覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] この世界ならおやきの名前で戦争が起きなくて済みそう
[一言] 戦が始まる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ