表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1342/1812

第二百四十八章 新年祭(初日) 1.シアカスター(その1)【地図あり】

 シアカスターは王都の門番として、王都イラストリアの前哨的な役割を与えられた都市である。バンクスやサウランドからの街道が集束する交通の要衝でもあり、商業的にも栄えている。


挿絵(By みてみん)


 「シアカスター」とは古語で「猫の砦」を意味するが、初代城主がシアフォード侯爵であったからとも、侯爵夫人が猫好きで城内に猫が(あふ)れていたからとも言われている。


 そんなシアカスターの町は新年祭で賑わっていたが、中でも殊更(ことさら)に人を集めている一画があった。言うまでも無い。ノンヒュームがシアカスターに出している菓子店「コンフィズリー アンバー」のある辺りである。


 そして……その光景を見て呆然としつつ、密かに頭を抱えているのは、



(なぁんてこったい……)

 


 ――王都イラストリアに駐留するモルファンの先行偵察員、カルコであった。



・・・・・・・・



 ここシアカスターは、いずれモルファンの王女一行がイラストリアを訪れた際に、モルファン公邸の開設予定地として密かに算段されている。カールシン卿からその事を――機密情報だと口止めされた上で――教えられたカルコは、(きた)る王女留学の時のために、折に触れてここシアカスターの町を訪問、見聞していた。

 今回は(ようや)くに確保された公邸予定地を、バンクス出向中のカールシン卿に代わって、下見を済ませてきたところであった。


 ちなみに公邸の予定地とされている場所は、ノンヒューム直営の菓子店「コンフィズリー アンバー」からかなり離れた場所にあった。

 手頃な用地が確保できなかった――何しろ、今や(くだん)の菓子店の近所は、シアカスターでも超一等地として名を馳せており、(まと)まった敷地は無論の事、猫の額ほどの土地でも入手は困難を極めている――ため、近場の土地を確保するのは王家と(いえど)も難しかったのである。


 モルファンとの関係を気にしたイラストリア上層部が、密かにカールシン卿に(はか)ったところ、〝亡者どもに(ねぐら)を与えてやるのに、菓子店との距離など忖度(そんたく)する必要は無い〟――と、(黒い)(わら)いを浮かべて言い切った上に、〝そんな事を気にするより、ノンヒュームに迷惑をかけない事の方が重要〟とも強調したので、イラストリア側もそんなものかと納得したのであった。まぁ、用地の確保が難しいのは事実であるし。



・・・・・・・・



 ともあれ、そんな予定地の近在を見て廻って、概ね問題は無いだろうとの結論に達したところで、カルコは――今やすっかり常連となった――菓子店の方に足を向けたのである。

 折角近くに来た事でもあるし、あわよくば菓子店で酒のアテでも買って――などと思っていそいそとやって来たカルコであったが……いざ来てみると常ならぬ(ひと)(だか)り。

 ()如何(いか)なる事ぞ――と、通行人に訊いて判明したのが、



(シアカスターにゃ出店は来ないと聞いていたんだが……菓子店が臨時の外売りをやってるとはな……)

 


 今や国外にまでその名が知られた「ノンヒュームの露店」であるが、マンパワーの余力が無いために、相変わらず出店先は増えていない。ただ、エルギンは連絡会議事務局のお膝元という事で、小規模な販売を行なっている。

 そしてここシアカスターでは、常設の菓子店があるのだから祭の時の露店は無しという事で合意に至っていたのだが……いざ新年祭が近付いてくると、(うらや)みと(よく)()が頭を(もた)げてきたらしい。

 少しだけでも何とかならないかというシアカスター当局の懇願に押される形で、露店の派遣はやはり無理だが、「コンフィズリー アンバー」が外に出店を出す事で(まと)まった。まぁ「アンバー」の側も、どうせこんな事になるだろうと予測し(あきらめ)て、(あらかじ)め手を打っておいたのだが。


 ちなみに、厳密に言えば露店は一ヵ所ではなく二ヵ所……「コンフィズリー アンバー」と「駄菓子屋」がそれぞれに店を出す事になっている。


 ――では、その「駄菓子屋」とは一体何なのか。


 以前に少し触れた事があるが、ノンヒュームが五月祭と新年祭でお披露目(ひろめ)した駄菓子は、それこそ貴賤上下の区別無く、イラストリアの甘党たちの心臓(ハート)と胃袋を鷲掴みにした。クロウの中では〝砂糖漬けはセレブ向け、駄菓子は庶民向け〟という認識であったのだが、実際に蓋を開けてみればセレブも普通に駄菓子を求め、庶民も(ひる)む事無く砂糖漬けに手を伸ばすという始末で……要するに嗜好が二極化しなかったため、それぞれの需要が予想を上回って倍増したのである。


 量の倍増はともかくとして、問題になったのは駄菓子の供給である。

 当初は五月祭や新年祭での限定販売と考えていた駄菓子であったが、それを求める声があまりに多く、常時の販売を考えるしかない状況に追い詰められた。


 ――そうすると、問題になるのが店舗である。


 需要が倍増した事もあって、「コンフィズリー アンバー」の一画を駄菓子コーナーとして明け渡す……などという贅沢が許される状況ではなくなっている。ここはどうしても別店舗を準備する必要がある。

 あれやこれやの検討の結果、駄菓子屋は同じシアカスターの町の中、コンフィズリーショップからは少し離れた位置に開店する事になった。店名は「ダガシ アンバー」であるが……この店名が決まるまでには、これまたちょっとした紆余(うよ)(きょく)(せつ)があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ