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第二百四十七章 新年祭~開幕前~ 1.ノンヒュームたちからの相談

『本気か? いや、正気か?』



 魔導通信機から聞こえてくるクロウの声には、信じられないという響きがあった。まぁそうだろうな――とはホルンたちも思う。何しろ(きた)る新年祭に、菓子の新製品を提供しようというのだ。

 それも最初に五月祭に参加してからこの方、出店の度に殺到する客たちを相手に、毎回のように死闘を繰り広げている――註.ノンヒューム視点――という現状なのに、である。


 (こと)に激戦区となっているのが、砂糖菓子の出店であった。


 ビールの人気も依然として衰えを知らないが、あっちは客層がほぼ成人男性に限られている。対して砂糖菓子の方は、老若男女の(ことごと)くに広く間口を開いているため、客の動員数が圧倒的に多い。しかも、砂糖菓子自体の種類が多岐に(わた)っており、その分だけ広い客層にアピールする事になっている。

 悪い――店という立場からは〝悪い〟事ではないのだろうが、店を任された者たちは口を揃えて〝悪手〟であると言い立てている――事に、店の側が毎回のように新機軸の商品を売り出すため、物見高い客を掻き集める羽目になっていた。

 今回は新製品を自重しようかという話になっていたのを――



『予定を変更して新製品を売りに出すなど……控えめに言っても自殺行為としか思えんのだが?』



 呆れと当惑を()()ぜにしたような声で、クロウが暗に翻意を勧めてくるが、ノンヒュームたちには彼らなりの言い分があった。それも説得力満載のやつが。



『……モルファンの動きと「ボラ(ロークココア)」が原因か……』

「はぁ。先の五月祭終了後は、もう新製品を出すのは控えめにしようと考えたのですが……」

「その後に、モルファン絡みでイラストリア王家からの依頼を受ける羽目になった事で……」

「いきなり前提条件が引っ繰り返っちまった訳でさぁ」

『う~む……』



 イラストリア王国からモルファン歓迎パーティ用にと、食器に続いて酒――それも可能なら珍しいもの――を提供できないかと打診されたのが、全ての発端であったと言えよう。

 行き掛かり上無下(むげ)に拒否する訳にもいかず、半ば()(くず)しに提供の方針が決まったのであったが……同じ頃合いでクロウがローク豆からの「チョコレート」試作に成功した事から、話が思わぬ方向に転がり出す。今後の展開も見据えた上で、自分たちもその「チョコレート」製造に一枚噛ませて欲しいと、ノンヒュームの菓子班から陳情が出されたのである。


 他ならぬノンヒュームからの要請とあらば是非も無し……と、クロウはローク豆からのチョコレート製造技術を開陳したのだが……関係各位の奮闘努力――チョコレート製作を任されたエルフと、原料であるミルクの確保を命ぜられた獣人と、ついでにコンチングマシンの開発を振られたドワーフたちは、今も血反吐(ちへど)をと(うら)みを吐きつつ頑張っているらしい――の甲斐あって、何とかローク豆のココア(ボ ラ)の試作にまでは()()けた。(きた)る五月の王女歓迎パーティには、どうにかチョコレートを提供する事もできそうである。

 ただし、これにも問題があって……



「原料である豆の手配が難しいとなると、ココア(ボラ)にしろチョコレート(なまえはまだない)にしろ、広く流通させる事はできませんから」

「選に漏れた者たちが、自分たちにも何かを寄越せと声を上げるのは間違い無く」

「不満を抑えるためには、何か他の新製品を持ち出すしか無さそうなんで」

『う~む……』

「国内の貴族だけでなくモルファンへの提供も視野に入れると、単に新奇なだけでなく、それなりに高級な菓子の開発が不可避となります」

『う~む……』



 こうも理路整然と確たる根拠を示されては、クロウとしても同意するしか無い。

 しかも、彼らの話にはまだ続きがあって――



「ただ、あんまりお貴族様向けの菓子ばかりに(かま)けるのも(まず)いんで」

「我々ノンヒュームの支持母体は、飽くまで一般の民衆ですから」

「つまり、一般向けの菓子も幾つか準備しておく必要がある訳でして」

『う~む……』



 成るべくして成ったとしか言えないが、(すこぶ)る厄介な状況なのもまた事実である。



『ノンヒュームの言い分は理解した。……が、具体的にどういうものを考えているんだ』

「さて、それが問題でして」

「平民向けのもんならともかく、王家や貴族向けの菓子なんて言われても……」

「腹案どころか想像もできないのが実情で」

「お知恵をお貸し願えないかと思いまして」

『うむ……』



 ――どうやらこれが今回の本題らしい。



『そうは言うが、俺だって貴族だの国賓(こくひん)向けの菓子など……詳しくないぞ?』



 〝知らん〟と突っぱねたいところであるが、生憎(あいにく)とラノベ作家という職業柄、雑知識(トリビア)だけは貯め込んでいるのがクロウである。自身甘いものは嫌いではないし、眷属や身内に食いしん坊がいる関係で、この手の事には詳しくなった。マンションへ帰ればパソコンで調べる事もできるし、シラを切り通すのは心情的に難しい。



(とは言え、相応に高級感があって、しかも目新しいものとなると……)


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― 新着の感想 ―
[一言]  金平糖かバームクーヘンの実演販売とか?
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