表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1336/1812

第二百四十六章 シュレクをめぐって 14.クロウ~覆される予想~(その2)

『余計なお節介(せっかい)と言われそうだが……村の連中にも、菓子を食べる楽しみというものを知ってほしいものだな』

『けどマスター、お菓子が買えないなら、自分たちで作るしか無いですけど』

『果たして彼らに()(よう)な暇がありましょうかな?』

『砂糖と小麦粉はともかく、卵もバターも無いんですよね? 主様(ぬしさま)

『うむぅ……』



 材料と時間に制約がある中で、それでも菓子を作ろうとすれば、簡単お手軽なものしか選択肢は無い。



『一応、芋餅と大学芋のレシピは渡してある筈だが……』

『あ、それは時々……と言うか、ごくごく(たま)に作っているようです』

『会話の端々に出てきましたからな』

『ふむ……』



 あれくらいの手間であれば許容範囲なのか。ならば他に簡単なものは……と考え始めたクロウであったが、そこに別視点からのコメントが寄せられる。



『けどぉ、ノンヒュームさんたちのお菓子とぉ、(かぶ)ったらぁ……』

『ダンジョン村を……訪れる者が……増えている事に(かんが)みると……(まず)いかも……しれません……』

『あ……それがあったか……』



 テオドラムは閉鎖的な国であるが、それでも人の往き来が無い訳ではない。ダンジョン村自体への街道は封鎖されているが、(そもそも)他国の商人を密入国させようという話が発端である。そんな外来の商人などに、〝ダンジョン村ではノンヒュームの菓子と同じものを食べている〟などと受け取られては面倒である。ノンヒュームの往き来があるのならまだしも、そうでないならダンジョンが疑われるのは自明ではないか。



(『……自明かなぁ……』)

(『ダンジョンが菓子のレシピを提供するなんて事、普通は無いわよね……』)

(『しかし……既に……料理のレシピは……提供して……いますから……』)

(『その件が他所(よそ)に漏れるかどうかだよね』)



 幾許(いくばく)かの不確実性はあるにせよ、危ない橋を渡るのは避けたが良い。となるとノンヒュームたちとは別の方向で、砂糖を使った嗜好品のレシピを考案しなくてはならない。……結構面倒な案件である。



『いや……特徴的な菓子ならともかく、()(きた)りの菓子なら問題無いんじゃないか?』

()(きた)りの菓子ってどういうの? クロウ』

『いや……具体的には知らんが……何かあるんじゃないのか? パンケーキとか』

『マスター、あれって確か、ベーキングパウダーを使いますよね?』

『ベーキングパウダーはともかく、重曹とかもあまり一般的ではないような気が……』

『いや、使わないものもあった筈だぞ? 古代ギリシア風のパンケーキとか』

『でもぉ、それってぇ、美味しぃんですかぁ?』

『うむ……』

『ご主人様……重曹は……塩の精製の……副産物として……得られるのでは……?』

『まぁ、そうだな』

『あら、だったらクロウが渡せば済む事なんじゃないの?』

『それはそうなんだが……重曹を膨張剤として使うのって普通なのか?』



 ――問われて一同も考え込んだ。

 クロウのあやふやな知識によると、地球で重曹が膨張剤として用いられたのは、十八世紀以降の筈だ。重曹自体はそれ以前から知られ使われていたようだが、少なくとも膨張剤としての利用は、かなり後になってからの筈。こちらの世界ではどうなのか。

 一同揃って首を(かし)げたので、この手の事に詳しそうな元・主計士官のハンスに訊ねてみたところ、重曹――こちらでは単に「ソーダ」と呼んでいるらしい――自体の用途は色々とあるが、やはり膨張剤として使うのは聞いた事が無いとの返事。


 ……これはやはり、不用意に渡すのは控えた方が良いのでは。



『普通にイースト菌を使ってもいいんだが……時間がかかりそうなのがなぁ』

『そうすると……お団子とかかな?』

『米粉の代わりに小麦粉かぁ……「いきなり団子」みたいな?』

『餡はどうしますかな?』

『あ、小豆餡とか砂糖醤油は無理だよね。……砂糖水?』

『あれはどうかな? (きな)()

安倍(あべ)(かわ)かぁ……』

『大豆とかがあるなら、それもありかも』

『大豆があるんなら、ずんだ餅は?』

『……いや、ちょっと待て。団子って、こっちの大陸にも普通にあるのか?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ