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第二百四十六章 シュレクをめぐって 12.シュレク~ダンジョン村~(その2)

 ――こんな状況の鉱山村に、突如として乱入してきたのがクロウである。


 クロウは鉱山をダンジョン化した後、砒素の除染を行なった。そのついでに耕地の土壌条件を大幅に改善したため、麦をはじめとする作物の生育もこれまた大幅に改善された。しかもクロウの介入後、テオドラムは――安全保証という建前(たてまえ)から――村との交流を断絶している。言い換えると、穫れた小麦をお上に納入する手段も義理も必要も無い……

 ()くしてダンジョン村が手にする収穫量は、一気に数倍に跳ね上がっていた。


 歴史の妙味というやつか、ここで更に面白い状況が巡って来る。

 クロウが――例によって深く考えずに――創り出した、あの「(いざな)いの湖」である。


 国境地帯に突然出現した巨大な水源の存在は、ネズミのような小動物が大発生して農地を襲う懸念をテオドラムに与え、テオドラムはその対策として小麦の備蓄に舵を切った。その結果、市場に流れる小麦の量が減少し、世間では小麦が不足気味となっていた。


 ここで、テオドラムが維持を放棄したであろう鉱山村改め「ダンジョン村」と、その周辺の村々の事を思い出した商人が何人かいたらしい。テオドラムに難癖を付けられるのを、更には難癖の挙げ句に小麦を没収されるのを避けるため、態々(わざわざ)国境を越えて密入国する手間と危険を冒すまでして、近在の村からの小麦――と情報――の入手を図ったのである。


 こすっからい商人が足下(あしもと)を見ようとしたために、交渉相手の村人は商人の申し出を一蹴したが……ともあれダンジョン村の余剰小麦を、近在の村に託す形で交易に廻し、不足する日用雑貨を入手する――という案が、既に村人たちの胸中に生じていたのだ。


 (もっと)も、そんな村人たちの(もく)論見(ろみ)を知らないクロウが、交易用の物資として精製塩を渡した事で、村人たちの目算は修正を迫られる事になったが……それでも基本的な部分には大幅な変更をする事無く、アレンジが可能であったのは幸いであった。


 結果として……



・・・・・・・・・・



他所(よそ)の村の衆には、手間賃としてブロッコリーを渡す。また、商人から得た雑貨類を近在の衆が望むなら、小麦以外の作物と引き換えにする……悪い手ではないように思えるの」

「まぁ、ダンジョン様次第っちゅうか……負んぶに抱っこなのが申し訳無いが……」

「ダンジョン様もその点は気にしておいでのようじゃ。塩は呼び水のようなものとして使い、いずれは農産物だけで取引が可能……そういう形を考えておいでのようじゃの」

「ふむ。或る意味で(わし)らの頑張り次第っちゅう訳じゃな。こりゃ、性根を入れ直して取っかからんといかんわ」



 ――とまぁ()くの如く、ダンジョン様ことクロウに対する感謝と決意を改めて表明する者が、村のそこここで認められた。


 ちなみに、近在の村の者たちはこの年送りの宴(ぜんやさい)には参加していないし、明日の新年祭にもご遠慮を願っている。

 と言うか、〝ダンジョン様に帰依する者たちの祈念の祭〟であると説明したところが、打ち揃って参加を辞退したのである。入信を迫られるとでも思ったのだろうか。まぁ、ダンジョン村の村人たちにとっては、機密保持の観点からも其の方が都合が好いので、敢えて参加を促すような真似はしなかったが。


 ともあれ、こんな感じでダンジョン村における前夜祭の夜は更けていくのであった。

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