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第二百四十六章 シュレクをめぐって 9.テオドラム(その1)

『何だと? テオドラムのやつら、砦の建築を散々サボった挙げ句に、今度は人員まで引っこ抜こうってのか?』



 「怨毒の廃坑」のダンジョンコア・オルフからの連絡を受けて、憤懣(ふんまん)を露わにしているのはクロウである。


 今を去る事二年ほど前、モルヴァニアの一部隊がテオドラムとの国境を監視する位置に砦を構築したのを発端に、テオドラムはシュレクの後背部に――「怨毒の廃坑」の監視を兼ねて――警戒部隊を駐屯させた。最終的には二個中隊にまで膨れ上がったその駐屯地の整備を手がけていたのを、完成後に頂戴しようとクロウが楽しみに待っていたのである。


 ところが――そのクロウが仕掛けた贋金騒動などが引き金となって、一気に経済状態が悪化したテオドラムは、背に腹は代えられぬと緊縮財政を実施。砦の建造も一旦凍結された。

 それでもいずれは完成する筈――と、その日を心待ちにしていたクロウであったが、あれやこれやの事情で――大抵はクロウのせい――人員が不足気味となっていたテオドラムは、シュレクで塩漬け状態になっていた二個中隊からの兵員抽出を断行した。

 そして――それはつまり、一時中断しているシュレクの砦建造をこのまま凍結するという意思の表れとも受け取れる訳で……結果、当てが外れたクロウが吠え立てているという現状なのであった。


 ――こういうのを世間では〝自業自得〟と云う。



『うぬぅ……少し暴れて危機感を(あお)ってやりたいところだが……』

『それをやると、村人たちが不安がります。ご()(ちょう)下さい』

『解っている……』

 


 クロウを立腹させたテオドラムの決断だが、実は以下のような事情があった。



・・・・・・・・



「シュレク砦から兵力を引き抜く? なぜそういう話になるのだ!?」



 テオドラム王城内の一室で憤激の声を上げているのはレンバッハ軍務卿、そしてその怒号の向く先にいるのはジルカ軍需卿である。 



「緊縮財政とやらで砦の建築は中途半端なまま、使えん状態で放置されておるというのに……今度は更に兵員まで引き抜く? 万一への備えというものを解っておるのか!?」



 軍務卿の激昂に首を(すく)めつつ、気丈にも軍需卿は勇を鼓して抗弁の声を上げる。



「し、仕方が無いのだ。今のところダンジョンもモルヴァニアも、一向に動く気配を見せぬ。言い換えると、シュレクの二個中隊は塩漬けも同様の状態に置かれておる。砦が十全に機能せんとあらば尚更だ。今の我が国には、兵力を無駄に遊ばせておけるようなゆとりは無い。それは貴卿も重々解っていよう?」

「むぅ…………」



 渋い表情で黙りこくった軍務卿を見て勇気づけられたのか、ジルカ軍需卿はここを(せん)()(まく)し立てる。このような状況に陥った顛末(てんまつ)を、軍務卿とて知っているであろうその経緯(いきさつ)を。



(そもそも)、あの砦は国境の向こうに陣取ったモルヴァニア軍に対する抑えとして強化されたもの。()れどそのモルヴァニアは、飽くまでシュレクの監視に徹する構えを崩さず、我が国への侵攻は――少なくとも当面は――無いものと考えられる。ならば、配備している兵力についても、改めて考え直す必要がある」

「………………」

「あの砦はそれと同時にダンジョンへの警戒という意味もあったが、ダンジョンの警戒というだけなら、街道の入口を封鎖している関所だけでも充分。言うなれば、関所と砦は兵力がダブった状況にあるのだ」

「………………」

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