第二百四十六章 シュレクをめぐって 8.モルヴァニア(その4)
う~むと考え込む国務卿たち。世論操作の一種であるが、斯うして改めて考えてみると中々に面倒である。
「……アラドが急に活況を呈するような理由は……無いな」
「アバンの廃村の件はどうなのだ?」
「確かに、アバンはアラドにも通じているが、どちらかと言えばウォルトラムの方に近い。実際に、そちらを訪れる行商人が増えているそうだからな」
「う~む……」
「……マーカスと口裏を合わせる必要はあるが、『災厄の岩窟』を口実に使えんか? あそこを見物がてらマーカスに向かうとか……出土品を競売にかけるとか」
「いや……見物はともかく、『岩窟』からはそこまでめぼしい物が出ていたか? シャルドの遺跡とは違うのだぞ?」
「寧ろ、監視砦に必要な物品を運ぶ、そのついで……という方が、まだ説得力がありそうだな」
「……成る程」
悪い案ではないように思えるが、現状で監視砦への補給は軍が主導で行なっている。そこに民間人が参入する動機は?
「……街道が通り易くなったとか」
「補給を口実に、街道の整備を行なう訳か?」
「悪くはないが……あまり軍事色を出し過ぎると、徒にテオドラムを刺戟する事になるぞ?」
「う~む……」
八方塞がりかと思われたその時に、迷案を持ち出す者がいた。
「いや……誘致するのが小規模な行商人だというのなら、街道の拡大などは然して恩恵にはなるまい。ここは寧ろ、過ごし易さに目を向けてはどうだ?」
「過ごし易さ? ……旅路のか?」
「どういう事だ?」
「いやな、ちょっとばかり小耳に挟んだのだがな……」
男がそう言って話し出したのは……あろう事か、「緑の標」修道会が中心となって進めている、街道緑化の件であった。
「成る程……街道の規模を拡大するのではなく、休憩所や街路樹を増やすのか」
「それなら民間での活動だと主張する事もできるな」
「あぁ。実際の作業に携わるのは、イラストリア発祥の修道会だ。さすがのテオドラムも、軍事行動だとの難癖は付けられんだろう」
手前勝手な理屈を並べ立てる国務卿たちであったが……自分たちの都合は都合として、それを実行するには幾つもの難関がある事も理解していた。
「……最初にして最大の問題は時間だな。彼の村の申し出を考えるに、あまり時間をかける事はできまい」
「しかし、我々はその修道会とやらに伝手を持っていないのだ。話を通すには時間がかかるぞ?」
「既に伝手を持っている者を頼るしかあるまい」
「……イラストリアか?」
「あそこには対・テオドラムの件で協力したいという密書を送っている。そう素気無くされるとは思わんが……」
「だが、その話もこちらから一方的に持ち掛けたものだ。その舌の根も乾かぬうちに、このような依頼を出すというのも……」
「外聞は悪いが、仕方あるまい。それに見ようによっては、これとてテオドラムに対する謀略には違い無いのだからな」
「とは言ってもだ、既に年の瀬も間近に迫っている。修道会に依頼を出してもらっても、彼らが動いてくれるのがいつになるかは判らんぞ?」
「一つはっきりしているのは、その返事を待ってはおれんという事だな」
「……少なくとも最初の〝行商人〟は、こちらで用意する必要があるか」




