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第二百四十六章 シュレクをめぐって 2.クロウ(その2)

『クロウ様のお言葉を借りれば……QOLといいましたか? それの格差が生じた訳です』

『その結果、どうも近在の村々から、ダンジョン村の生活を羨む声が上がっているようで』

『あ、ダンジョン信仰圏の拡大ですね♪』

『……うん、キーン。良い子だからちょっとだけ黙っていような』

『はぁい』



 ダンジョンの傘下に入りたいと言い出す村が現れたのかと、クロウは内心戦々恐々であったが、二名の話を聞く限りでは、そこまで切迫した事態ではないらしい。



『ただ、現実にダンジョン村が健康と活気を取り戻したのを見て、そのお(こぼ)れに(あずか)れないかとは考えたようでして』



 (もっと)も、ダンジョン村の村人もそこは用心深く、砂糖に関しては厳格な情報統制と機密保持を徹底しているらしい。



『しかし、さすがに畑の作物まで隠し(おお)せる事はできず、しかも見慣れない作物が多いとあって』

『これこそがダンジョン村の活力の源ではないかと思ったようでして』

『そこで作物の物々交換という話が出て来た訳か……』



 現在のところダンジョン村で栽培されている作物は、


[クロウの介入以前から栽培していたもの]

・麦

・スズナ こちらの世界で栽培されているカブのような根菜

・キャビット こちらの世界で栽培されているキャベツのような葉野菜

・ゲイン豆 こちらの世界で広く栽培されている豆


[クロウが持ち込んだもの]

・こちらの世界に自生するジャガイモのような芋

・アルサンという、こちらの世界に自生する牧草の一種。地球のムラサキウマゴヤシに近く、モヤシとしても利用可能。

・日本から持ち込んだサツマイモ。ただし似たような芋はこちらにもある。

・日本から持ち込んだブロッコリー

・日本から持ち込んだトマト

・日本から持ち込んだツルムラサキ


 ――となっている。


 言うまでも無くこの中で問題なのは、クロウが日本から持ち込んだ四種類である。

 このうちサツマイモとブロッコリー、ついでにジャガイモ(もど)きについては、既に持ち込みの経緯を述べた。トマトは村人の栄養が偏るのを気にしたクロウが追加で持ち込んだものだが、ツルムラサキは同じ蔓植物であるサツマイモの擬装用に持ち込んだもので、こっちも若い葉や蔓は食用になる。サツマイモに似た芋――ただし甘味は弱い――はこちらにもあるのだが、サツマイモとは違ってあまり蔓を伸ばさないので、こういった偽装も必要になるのであった。(もっと)も、そんな小細工がどれだけ通じるかは未知数である上、(そもそも)蔓性の作物というのが――少なくともテオドラムでは――多くないため、人目を引くのは避けられていない。また、トマトにしても類似した作物が知られていないため、これも目立つのは如何(いかん)ともしがたい。(ひっ)(きょう)、近在に住まう村人たちの関心もこれらに集中しているらしい。

 ちなみにブロッコリーについては、花梗を伸ばしていない時期には葉野菜の一種だと誤魔化せたようである。


 なお、クロウが最も懸念していた性質の変化であるが、生育がより旺盛になった他はブロッコリーのデトックス効果が高まったぐらいで、密かに危惧していたような()()(れつ)な変化――食べるとスキルが生えるとか――は現れなかった。不幸中の幸いと言えよう。



『そうすると……仮に作物が他所へ渡っても、そこまで不審に思われる事は無いのか? ……いや、他所(よそ)で再生産される可能性を考えると、サツマイモは(まず)いか』



 クロウが漏らした(つぶや)きに答えて、



『ダンジョン村の村人もそれは考えているようで、ブロッコリーを交換に出したいと申し出てきました』

『ブロッコリーを?』

『はい。近在の村人たちの砒素中毒を癒やしたいと』

『あぁ……そういう事か』



 (かつ)てのダンジョン村ほどではないにせよ、砒素による汚染は周辺の村にまで――微弱ではあるが――広まっていた。目に見えるほどの健康被害は無いようだが、体調を悪くしている者は少数いた。現在はアルセニックスライムの奮闘によって除染が進んでいるが、体内に蓄積された砒素はそのままである。ブロッコリーのデトックス効果によって、それをどうにかしたいというのが陳情の理由らしい。



『まぁ、それは構わんのだが……しかし、作物の交換か……』

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