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第二百四十五章 イスラファン鈍刀乱麻 6.ヤルタ教・ハラド助祭@ヤシュリク(その1)

 ヤシュリクを訪れたテオドラム経済情報局調査員の動きがヤルタ教のハラド助祭の耳に入ったのは早い時期、具体的に言えば彼らがヤシュリクへ到着して四日目の事であった。これを早いと見るか遅いと見るかは人それぞれであろうが、付言しておくなら経済情報局の調査員が敢えて訊き込みを秘匿するような行動を取らなかった事と、ヤルタ教の手の者がそれなりの数ヤシュリクに潜伏していた事を忘れる訳にはいかないであろう。

 ともあれ、そういった事情の帰結として、ハラド助祭は四日後には既にテオドラムの動きを――経済情報局という部局名まではともかくとして――掴んでいたのであるが……



「テオドラムのやつら、何でイスラファンくんだり(こ こ)までしゃしゃり出て来た?」



 ――大方の案に相違して、その動きに神経を尖らせていた。


 ヤルタ教の本拠地どころか有力な拠点すら無いイスラファンである。そこに他国の密偵が現れた事を、そこまで気にする必要は無いように思えるが……ヤルタ教にはヤルタ教の言い分があった。


 (そもそも)の話として、ヤルタ教がイスラファンという国に関心を抱いたのは、現在のヤルタ教の本拠地となっているテオドラムに、このところ不穏な影が射すようになってきているのが理由である。

 ヤルタ教にとっては天敵とも言える「バトラの使徒」が、どうもテオドラムに害意を抱いているようなのだ。ならばこの際、ヤルタ教とテオドラムが手を取り合って「バトラの使徒」に立ち向かう……という方向に進まないのは、ヤルタ教とテオドラムの両者が互いを信用していないのと、問題の「バトラの使徒」の所在も戦力もまるで判っていない事が大きい。

 それでなくとも得体の知れない、しかしその力量だけは(かい)()見せる相手に、軽々しく喧嘩など吹っかけられるものではない。


 なのでヤルタ教は、テオドラムの巻き添えを喰うのは御免とばかりに、テオドラムから距離を取る事を考えたのであるが……その際の避難場所候補の最右翼と目されているのが、ここイスラファンなのである。

 テオドラムからの逃げ場と考えているイスラファンに、事もあろうにそのテオドラムが触手を伸ばし始めたとあっては、ヤルタ教とて安閑とはしておられぬ道理である。



「……テオドラムは何を考えている?」



 ヤルタ教に執着するあまりの嫌がらせ……だとはまず思えない。自分で言うのも情けないが、あの国がそこまでヤルタ教(しぶんたち)を高く買っているとは思えない。

 しかも――である。そのテオドラムの密偵たちが探りを入れている件というのが――



「……何でベジン村の事を気にしている?」



 ベジン村とその近在で起こった百鬼夜行騒ぎは、遠く離れたシュライフェンの地にいた先進的な船大工から目を逸らすための陽動……そう信じるハラド助祭としては、テオドラムがベジン村の事を気に掛けているという事実は、意外とも微笑ましくも思えたのであったが……



「……ただ……今にして思えば、単なる陽動にしては大掛かりな気がしないでも……」



 ベジン村から始まってガット村からネジド村まで、都合三つの村を股に掛けた大騒ぎである。陽動としての働きは充分だったであろうが、(いささ)か大掛かりに過ぎるという気がしないでもない。そういう懸念を含めて、虚心坦懐にこの問題を見つめ直してみると……



「……テオドラムは何かを掴んだのか?」



 ――確認が必要な案件だとも思われてくる。



「ふむ……今一度ベジン村に手の者を派遣して……いや……テオドラムのやつらが訪れたその()ぐ後に、我々の密偵が現れるとなると……」



 ――悪目立ちするのは間違い無い。諜報組織としては絶対に避けるべき展開である。



「……ベジン村ではなく、テオドラムの思惑(おもわく)という方向から攻めてみるか」



 ()(かん)ながらテオドラム上層部の思惑を探り出すほどの()(づる)は、ヤルタ教と(いえど)もまだ構築できてはいない。しかし、単なる思考実験として、テオドラムの狙いを考えるくらいならできるだろう。



「まず……テオドラムがイスラファンに触手を伸ばしているとしても、侵攻目的という事は考えられんだろう」



 テオドラム(あのくに)はあちらこちらに喧嘩を売っているようなところがあるが、それでも沿岸国と事を構えるほどに愚かではない筈。ただでさえイラストリアとマーカス、ついでにモルヴァニアとの仲が焦臭(きなくさ)くなっているのだ。下手をするとそれだけで三正面作戦、「バトラの使徒」まで加えたら四正面作戦を強いられる(おそれ)があるというのに、この上更にイスラファンまで敵に廻すとは思えない。

 だとすると、テオドラムがイスラファンに関心を示しているのは、交易相手という観点からだろうか。

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