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第二百四十五章 イスラファン鈍刀乱麻 1.テオドラム経済情報局調査員@ヤシュリク(その1)

 このところ舞台の隅に()()られた感のあるテオドラムであるが、彼らは彼らなりに真剣に、自分たちの置かれた境遇に向き合っていた。


 誤解と迷走の果てに、対ダンジョンマスターの目的でイスラファンと共闘する事が可能ではないかと判断(ごかい)したテオドラムの上層部は、その策の可否を判断するために、イスラファンに向けて調査員を派遣する事を決定した。

 (およ)そ二ヶ月前の十一月上旬に王都ヴィンシュタットを出発した経済情報局の調査員たちは、その八日後にはテオドラムの商都マルクトに到着。中一日の休みを置いて二日後にマルクトを出立し、六日後の十一月下旬にはイスラファンの商都ヤシュリクに到着していた。図らずもクロウがイスラファン南街道の件で眷属会議を招集、縦横無尽に議論が紛糾・迷走した挙げ句、古文書の偽造という謀略が決定されたその日の事であった。



・・・・・・・・



「どうだ?」

「いや、駄目だな。そっちは?」

「同じだ。空振りだな」

「ふ~む……ダンジョンの気配は無しか……」



 再三述べてきたように、テオドラムの関心はイスラファンの南街道筋に現れたというダンジョンにある。謎のダンジョンマスターが、自国テオドラムの周囲に張り巡らせた――註.テオドラム視点――ダンジョンによる包囲網。その一翼を担うと(おぼ)しきダンジョンがイスラファンに現れたというなら、調査員を派遣しない手は無いだろう。

 ただ……当該の「ダンジョン」が発見されたという報告が一向に届かない事から察すると、よほど巧妙に姿を隠しているものと思われる。



「つまり――今頃になって他所(よそ)(もの)の我々が、現地へ行って少しばかり探してみたところで、見つけられる可能性は低いと考えざるを得ない」



 それなら探すのを諦めるか……()もなくば、探し方を変えねばならない。



「そこで経済情報局(われわれ)の出番という訳か」

「あぁ。隠し砦だろうがダンジョンだろうが、そこにあるなら活動の痕跡を残さざるを得ない。それが市場活動に影響するなら、経済の専門家である我々の目を逃れる事はできない……筈だったんだが……」



 案に相違して、商業ギルドが公表している統計情報などを見ても、それらしい痕跡を見つける事ができなかった――というのが冒頭の会話である。



「……もう一度、考えを整理し直してみよう。まず、事件の発端となった魔物の行列は、定型からは外れているようだが、スタンピードの一種だと考えられる。これはいいな?」

「うむ」

「あぁ、異存は無い」



 ……のっけから大間違いである。

 ベジン村の近くには、彼らが想定しているような「ダンジョン」など無く、従って問題の「百鬼夜行」も精霊たちと……スライムなどごく一部のダンジョンモンスターによる「パレード」であった。一般に言われる「スタンピード」とはまるで別物である。



「そうすると――だ、問題のダンジョンはスタンピードを起こすほど年季の入ったダンジョンという事になる」

「うむ、論理的にして必然的な結論だ」



 ……間違った前提から導き出される結論は、途中の推論過程が間違っていなくても――(いな)、間違っていなければ尚更に――事実とは懸け離れたものとなる。

 この後の展開も()して知るべしである。



「なら、ダンジョンとしての活動もそれなりな筈で……つまりは、野生動物なり人なりに被害が出ている筈だ」

「なのに……そういった報告は皆無……」

「やっぱりおかしくないか?」

「あぁ、おかしい。となると、そのおかしさには理由がある筈だ」

「……情報が秘匿され、(わい)(きょく)されているのか……」



 秘匿し歪曲する情報など、(そもそも)何一つ無いのであるが……積み重なった誤解と思い込みの結果、彼らはおかしな迷走を始めたようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >積み重なった誤解と思い込みの結果、彼らはおかしな迷走を始めたようだ。 本小説は読者がクロウ側の所行を知り、 それに騙される周囲の行動を見て楽しむ、 「刑事コロンボ」型の推理小説を 読ん…
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