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第二百四十四章 クロウ~日本暦一月一日~ 2.パートリッジ邸(その1)

 パートリッジ卿主催の、或る意味で裏の歴史に残りそうな晩餐会の翌日、クロウは再びパートリッジ卿を訪ねて、スケッチの計画を詰める事になった。

 日本ではこの日が元日なので、少しノンビリしたかったクロウであったが、生憎(あいにく)とこちらの新年はまだ三日先。正月を理由に持ち出す事もできないとあって、クロウは内心では少し渋々と、パートリッジ卿との打ち合わせに向かったのであった。


 詳細な内容については割愛(かつあい)するが、パートリッジ卿との話し合いの結果判ったのは、


・古代遺跡は封印遺跡に匹敵する……いや、事によるとそれ以上に謎めいているため、発掘作業は丁寧かつ慎重に行なわざるを得ない。

・しかも想定していた以上に古代遺跡の――と言うか古代都市の――範囲が広い。下手をすると……いや多分確実に、発掘完了の前に例の話が露見する。

・そんな状況では、公開までに訴求力の高いポイントを選んでスケッチするなど無理な話。

・発掘現場の現状は単に穴ぼこだらけの荒れ地であり、絵としての魅力に乏しいかもしれない。(むし)ろ発掘に従事する作業員がいた方が、絵として締まるのではないか。


 ――といった事であり、それはつまるところ……



()(ぜん)……その状況でどうやって、殺到する民衆を納得させるような絵を描けと(おっしゃ)るんですか?」

「うむ……やはり難しいかね?」

「難しいも何も……」



 この状況で手を着けられそうなのは出土品のスケッチくらいで、イラストリア王国もこれを最優先にしてほしいそうだ。それだけならこの冬にも終わるだろうが、



「そりゃ、確かに目玉となるのは出土品でしょうが……土産物のスケッチを買わされるだけじゃ、観光客は承服しないと思いますよ?」



 絵葉書の(たぐい)は、買い求めてさえおけば後で好きなだけ見る事ができる。だがしかし、それだけでは態々(わざわざ)現場まで足を運んだ甲斐が無い。折角現場に来た以上、何か話の種になりそうなものを見聞したいというのは、これは観光客として自然な欲求である。封印遺跡の場合は、曲がりなりにもその一部を観覧に供する事ができたため、観光客の誘導もし易かった。

 しかし、供覧されるものが何一つ無いとすれば、客は銘々勝手に好きなところをぶらつくに決まっている。それは好ましくない事態ではないのか?



「……非常に好ましくないのぉ」

「でしょう?」



 とは言えパートリッジ卿の話では、今は見映えのするものなど何も無く、発掘中の作業員が唯一の見学対象だという。その光景を絵に残すのも一興だろうが、下手にそれが評判を取ってしまうと……



()の有名な〝発掘作業〟を一目見ようと、見物客が群がり来たらどうします?」

「……面白くない展開じゃのぉ」

「でしょう?」



 下手をすると、古代遺跡を見られない観光客のフラストレーションが昂じた結果、現場公開の圧力が高まる事も考えられる。いやその前に、封印遺跡での事例に(かんが)みるならば、勝手に忍び込もうとする不心得者が増えるだろう事は、火を見るよりも明らかだ。それどころか、遺跡の一部を〝記念に〟掻き取って、持ち去る馬鹿が出ないとも限らない。



「……益々(ますます)(もっ)(よろ)しくないのぉ」

「でしょう?」



 これはやはり、封印遺跡での経験を踏襲して、適当な場所を公開するしか無いだろう。



「しかし……遺構の範囲があまりにも広過ぎて、どこにどういう考古学的意味があるのかも判らんのじゃよ。下手なところを公開して、後々の発掘計画に支障が出るのも……」

「いえ、それなら――」



 遺跡の考古学的な重要性など、どうせ一見(いちげん)の客には判らないのだから、調査が済んだ場所に(もっと)もらしい理屈を付けて、説明板でも添えてやれば何とかなるのではないか。

 必要とあらば、後日の状況次第で公開する場所を替えてもいいではないか。不平等感は出るかもしれないが、代替の公開場所を提供してやれば、損をしたと感じる者はいない筈だ。どちらかと言えば、新たな公開場所を見んものと、リピーターが増える事を心配しなくてはならないかもしれぬ。



「……今思い付いたんですけどね、今回スケッチする予定の出土品、アレが出て来た場所を公開するというのはどうなんです? 大急ぎで調査を済ませてからの事になりますが」

「ふむ?」



 ――確かに、曰く付きの宝飾品が(まと)まって出土した現場というのは、これは訴求力の高いアピールスポットになりそうではないか。



「じゃが……実際のところはただの穴ぼこじゃよ? 封印遺跡の方には、(えら)くミステリアスな魔法陣が刻まれた扉があったが、古代遺跡ではその手のものは見つかっておらんからのぉ」



 その〝ミステリアスな魔法陣〟をデザインし加工した張本人(クロウ)は、内心でヒヤリとしたが、深く掘り下げずに話の本筋を追う。


 ――穴ぼこに鑑賞価値が無いというなら、鑑賞に()えるものを用意してやれば済む事だ。

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