第二百四十四章 クロウ~日本暦一月一日~ 1.マンション
日本時間の一月一日、ダンジョンロードのクロウこと、日本人の烏丸良志の元旦は静かに始まる……ような事は決して無かった。それというのも――
『マスター! 明けましておめでとうございます!』
『『『『『『『おめでとうございます!』』』』』』』
……マンションに常駐しているハイファの分体とゲートフラッグのアロム、フェイカージャンパーのサルトの三体の他、向こうの世界からやって来た眷属たち――ついでにシャノア――が年始(?)に来ているためである。
ついでに言っておくと、年始には来られない――もしくは遠慮している――他の眷属たちや爺さまからも、日本の新年を祝するメッセージが届けられている。
『あぁ、おめでとう……と言いたいところだが、お前たちの世界の新年は、まだ三日先じゃなかったか?』
『え~? おめでたい事は何度あっても、いいじゃないですか~。(……お餅だって食べられるし)』
……台詞の後半にボソッという感じで漏れたのがキーンの本音であろうが、クロウとて別段それを咎め立てするつもりは無い。
だから……
『クロウ! こっちの世界にはオショーガツにだけ食べられるものがあるそうね? 今年はあたしもご相伴に与るわよ!』
鼻息も荒くシャノアがそう宣言するのを咎めるつもりも無い。
折角誂えた雑煮とお節なんだから、喜んで食べる者は多い方が良いに決まっている。
とは言え――
『構わんが……屠蘇だけはやめておけよ?』
『トソって……何よ? それ』
『何と言うか……薬酒の一種だから、つまりは酒だな』
シャノアが何か言いかけたが、それに押っ被せるようにクロウが言葉を続ける。
『お前、以前にもシャンパンを引っ被って、酔い潰れた事があっただろうが』
『あ、あれは……ちょっとした事故じゃない』
飲み残しのシャンパンの壜をうっかり引っ繰り返したせいで、中に残っていたシャンパンを頭から引っ被って酔態を晒した前科を指摘されて、シャノアも不本意そうに抗弁するが……地球の酒で酔っ払ったというのは事実である。屠蘇など飲ませない方が良いに決まっている。
クロウが断固として譲る構えを見せないので、シャノアも渋々諦めた。まぁ、屠蘇が駄目でも、目新しい料理が目移りするほど目の前に並んでいるのだ。文句を言ってる暇など無い。同席しているのがキーンとあらば尚更の事。出遅れる訳にはいかないではないか。
(あぁ……大人数用を買わなかったのは失敗だったか)
料理の種類は多いのだが、うっかり二人前を頼んだために、一品当たりの数が少ない。クロウが切り分けてやるにしても、元々が小さなものも多いため……
『キーンっ! あんたソレ、一人で食べてんじゃないわよ!』
『ははいほほはひへふぅ~』
『あぁもぅ……リクエストがあれば追加で買って来てやるから……正月早々から喧嘩はやめろ』
こんな感じで、日本におけるクロウの正月は過ぎていくのであった。
シャノアがシャンパンを引っ繰り返して酔い潰れた話は、コミカライズ版に収録してあります。ちょっと宣伝。




