挿 話 ミンナちゃんのお願い
少し毛色の変わった挿話です。今回はどちらの話も短めです。その代わりと言っては何ですが、設定資料集を更新しています。
新しい年も喧噪の余日が過ぎると、少しは町の様子も落ち着いてくる。そんなある日、一階の食堂で朝飯を食べていた――バンクスに来てからはこちらで朝食を摂る事も多くなっている――俺の所へ、看板娘のミンナちゃん(七歳)がやって来た。出産を控えた母親に代わって宿を手伝う健気な子だ。宿の手伝いなんかしてるせいか、時々こまっしゃくれた振る舞いはあるけどな。
「お兄ちゃん、絵、得意だよね?」
「少しは描けるけど、何?」
返事をすると、ミンナちゃんはほっとしたように話し始めた。
「つまり、お母さんが何か疲れたような感じだから、元気になって欲しい。そのためにお母さんの好きな花を贈りたいけど、今は冬で手に入らない。だから絵を描いて欲しいって事?」
「うんっ、そうっ」
「いや、だけど見た事もない花なんか描けないよ?」
「うんっ、これっ」
得意気に出してくれたけど……押し花か、これ。
「つまり……この押し花をもとに花の絵を描けと?」
「うんっ、お願いっ」
押し葉や押し花をもとに生態画を描いた経験がないわけじゃない。しかし、実物を見た事も無い花を描けといわれても、イメージってものが湧かないんだよな。実際の花の色もこれじゃぁよく判らないし……。いや、それ以前に、この子が欲しがってるのは着彩画だよな? こっちの絵の具なんて持ってないぞ、俺。
結構な難題に頭を抱えていると、ジェハンさんが詫びを言いつつミンナちゃんを引っ張って行った……お客さんに無理を言うなと叱ってるな。
あ、押し花を忘れてる……仕方ないか。これも依頼には違いないしな。
押し花を預かったまま町に出る。もう、店も通常営業だろう。画材を売っていそうな店を尋ね廻って三件目、ようやく見つけた。半金貨一枚とはいい値段だな。
花のイメージがつかめなくて悩んでいると、懐中のライから念話が届いた。
『ますたぁ、右のぉ、奥にぃ、図書館?』
いや、ライ、お前何でそんな事が判るんだよ?
ともあれ、ライの不思議感覚で図書館を見つける。入館料は要らないが、事前に登録が必要らしい。一瞬悩んだが、得られるものの方が大きいと判断して登録した。登録名は素直にクロウとしておく。
図書館で図鑑のありかを聞き、ついでに問題の押し花がどれなのかも聞いておく。経緯を説明したら職員の小父さんは笑っていたけどな。
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その後は、恐縮するジェハンさんに――ミンナちゃんの説明だと、言葉が簡潔すぎてよく判らないので――花の咲いている様子を聞いたりして、何とかそれらしい絵をでっち上げた。こっちの絵の具に馴染んでないので、正直言って満足のいく出来ではない。それでもミンナちゃんは――「まっ、いっか」とのありがたいお言葉と一緒に――喜んでくれたので良しとしよう。
女将さんは大層お喜びだったそうだ。
もう一話、この話のいわば裏面を投稿します。




