第三章 エッジ村 1.村へ
新章開始。引き籠もりのクロウがついに村人と接触します。
「へぇ~、薬草を探すためだけに、そったら遠くから来なさっただか」
「おらたちゃ無学だで解らねぇが、ここら辺りにそったら大層な薬草があっただかねぇ?」
「いやぁ、私の国とこの国じゃ獣から草木から違ってますしね。ここらで普通にある薬草でも、私の国には生えてなかったりするらしいんですよ。薬草の区別なんて、正直言って私にもよく判らんのですが、とにかくそういう依頼なもんですから」
山越えして村外れに辿り着いたかのような振りをして、俺は村人たちと接触を持った。山からのそりと出てきた俺を警戒するでもなく、あからさまな異邦人に対しても人懐っこく話しかけてくる。最初に畑にいた一人と話しているうちに、後から二人が加わってきて、今は三名の村人に村まで案内してもらっているところだ。
「しっかし、お前様も大概に物好きなお人だなぁ。そったら妙な依頼を真に受けてこんな田舎まで来なさるたぁ」
「お貴族様の考えるこたぁやっぱ違うわ」
「はは、別に貴族ってわけじゃないんだけど……そう見えますか?」
「そったらトカゲやらスライムやら引き連れて旅するなんちゃ、おらたち貧乏人にゃ思いもつかねぇだよ」
「んだ。食えもしねぇ、役にも立たねぇ生き物に食わせるおまんまなんか、ここらにゃ余ってねぇだ」
「ペットっつっただか? ガキ共なら虫けら飼ったりするけんど、ここらじゃいい大人になってまでそんなこたぁしねぇだよ」
そう、今の俺にはライとキーンがお供についている。俺は単独で村人に接触しようとしていたんだが、うちの子たちが揃って大反対したのだ。異世界人だの、異世界の食い物だの、ダンジョンマスターだの、ばれたらまずい事が山盛りなのに単独で行動するなどあり得ない、というのがその言い分だった。
結局のところ、ペットとして連れ歩いても比較的不自然じゃないセレクトとしてライとキーンを選んだのだが、村人たちに言わせるとペットを連れているだけで目立つんだと。
「ま、とりあえず村長さぁに引き合わせるだで、そっから後のこたぁ村長さぁと話して決めてけれ」
「あ、そう言えばこの村の名前はなんて言うんですか?」
「ん? あぁ、この村はエッジ村って言うだよ。国の外れってぇ意味だで」
かくして俺はエッジ村の住人たちとの接触に成功し、この村の責任者と会見する事になった。
『ますたぁ、如才ないですぅ』
『本当に、僕、感心しました』
『苦手だからって、できないで済ませるわけにはいかないんだよ、人間は』
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「ほほぉ、薬草を探しにのぅ」
「はい、と言っても現物を集めるわけではないんですよ。こちらで使われている薬草の類について調べ、標本と記録を併せて持ち帰るのが仕事です」
「薬草を採り尽くすちゅうわけじゃぁござらんと?」
「えぇ、できれば仕事の合間にでも話を聞かせてもらえれば助かるんですが。ただ、この身一つの旅暮らしなので、お礼できるものが無いんです」
そう、村長と話しているうちに気がついた。俺には使える財産がない。こっちの貨幣など一枚も持ってないし、物々交換できるものもない。地球の物など持ち込んだら、どんな騒ぎになるか判らない。うちの子たちが獲った肉も駄目だ。調味料・香辛料はすべて地球産だ。妙な効果がつかないとも限らない。だからといって味付けなしでは交換品としても価値がないし、味のない干し肉や薫製肉というのも不自然だろう。拙い。どうにかしないと。
『マスター、僕、毛皮や牙、魔石を取引に使うって聞いた事があります』
おぉ、それだ、キーン。その線で行こう。
『ますたぁ、だったらぁ、宝石や鉱石なんかぁ、使えませんかぁ?』
うんうん、ライ、お前も冴えてるじゃないか。うちの子は皆優秀だ。
「いんやいんや、そったら事で旅のお方にたかるような真似はしねぇわ。気にせんと何でも聞いて下され」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて……」
人の好い村長の好意に甘えて、幾つかの薬草について教えてもらった。どのみち、こちらの世界で活動する上では、知っておいて損はない。代わりに地球の昔の暮らしなどを、差し支えなさそうな範囲で話しておいた。
「んだば、お前様ぁ、寝る場所はどうすっ気だね?」
「え? 適当に山の中で野宿でもしようかと……」
「いんやいんや、そったら事、えっらぃ難儀だで。あばら屋でよけりゃぁ、山小屋があるけんど?」
何と、使っていない山小屋を貸してくれるという。かなり傷んではいるが、その分は自分で直してくれとの事だった。願ってもない話なので、礼を言って受ける事にする。




