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第二百四十二章 善人(?)たちの夜 15.「迷姫」談義

「しかし、何でまた俺……自分はあぁまで睨まれたんでしょうか?」

「いや、睨むというのとは少し違うと思う。あれは――気を悪くしないでくれたまえよ?――娘が何か興味を引かれた対象を見る時の目付きだ」

「興味……ですか」



 不穏な台詞(せりふ)を聞かされたクロウの不安は(いや)が上にも高まったが、ここでルパが会話に参加する。



「いや……しかしお嬢さんは、クロウのどこが気に入ったんでしょうか? ご覧のとおり(はなは)だ社交性に乏しい男で、礼を失する言動も多々あると思いますが」



 真面目に、そしてクロウを心配しての発言であるとは判るのだが、聞きようによってはクロウを揶揄(やゆ)していると受け取られかねない。幸いにロイル卿も、そして傍らのマーベリック卿も人生経験は豊富とみえて、その辺りを誤解する事は無かったが。

 ちなみに失礼云々は、クロウのルパに対する態度からだろうが、クロウに言わせれば礼儀に相応(ふさわ)しい言動をとれないルパの方に問題があるのであって、クロウに責任があるのではない。そう信じているクロウは内心で少しお冠であったが、それでもルパの厚意に感謝するだけの冷静さはあった。それに――今は失言居士(ルパ)よりロイル卿の言葉に耳を傾けるべきだ。



「どこが気に入ったのかは、親である私にも判らないよ。恐らくは何かの勘なのだろうが……」

「勘――ですか……」



 ルパとマーベリック卿は()得要(とくよう)(りょう)な面持ちであったが、クロウには思い当たる節があった。「還らずの迷宮」でも、実に正確に奥の方へと進んでいたし。

 面倒の予兆を感じ取って、憮然とした表情を禁じ得ないクロウ。「子供の勘」などという漠然としたものが相手では、善後策の講じようが無いではないか。

 対して父親のロイル卿はと言えば、クロウに目を付けた根拠の一つが〝娘が妙に気にしている〟事であったのだから、ロイル卿も中々(したた)かである。


 ――が、クロウとて面倒な人間関係回避のためだけに、洞察力と対人スキルを磨いた剛の者。どうやら自分に興味は抱いているようだが、この場で追及する気はないようだと見て取ると、逆にロイル卿から情報を吸い上げてやろうと悪巧みを巡らす。何しろマナステラと言えば、近々クロウがダンジョンを出店する予定の国。国情の一つでも判れば収穫というものだ。まずは軽い牽制から。



「しかし……老婆心から言わせてもらえれば、度を過ぎた好奇心は危険では? 子供が()(かつ)に立ち入れば危険な場所も多いですし……例えばダンジョンとか」



 〝ダンジョン〟という言葉でロイル卿の表情が僅かに揺らいだのを抜け目無く見て取って、クロウは追い討ちの一言を放つ。



「……そう言えば……ここへ来る途中、エルギンで妙な噂を耳にしました。何でもモローのダンジョンで……?」



 疑念と困惑を()()ぜにした口調で言葉を切ると、ロイル卿は観念した様子でその一件を語った。マーベリック卿は勿論、ルパもこの件は初耳であったらしく、驚いた様子を隠さない。クロウは先刻承知の話であったが、それでも冒険者ギルドの対応などに聞くべき点はあったので、それが判っただけでも儲けものである。

 しかし――そんな内心はおくびにも出さないで、クロウはロイル卿に警告する。リスベット嬢がダンジョンから生きて帰って来られたのは奇跡だ、今後は目を離さないようにした方が良いと。クロウにしてみれば面倒回避が目的――何しろ当事者にさせられる危険性が高い――なのだが、(はた)()には子供の事を心から心配しているようにしか見えない。クロウに対する評価は爆上がりである。


 そんな周りの空気はスルーして、クロウは本命の問いを放つ。



「お嬢さんが好奇心に駆られたというと……マナステラはダンジョンが少ないんですか?」



 近々ダンジョンを開設予定のマナステラ、そこでの競争相手(ダンジョン)の分布情報は、クロウにとっては一大関心事である。この場で訊けるものなら訊いておきたい。



「いや……あの子はダンジョンと知らずに入り込んだようだが……クロウ君の質問に答えると、マナステラではこの国ほどダンジョンは多くないね。……まぁ、国によってダンジョンの密度はかなり違うようだが」

「ははぁ……すると、ご領地にはダンジョンがおありにならない?」

「いや、うちは法衣貴族の家柄でね。領地というのは持たないんだが……まぁ、屋敷のある王都の近くは無論、これまで行った事のある場所にも、ダンジョンは無かったね」



 それだからこそロイル卿も、立ち入り禁止の「双子のダンジョン見学ツアー」などというもの――そんなものがあるとはクロウも初めて知った――に参加したらしい。

 余談はさて()き、ロイル卿の言に拠れば、マナステラ国内でそれなりに知られたダンジョンは、「百魔の洞窟」の他に一つか二つではなかろうかとの事であった。それだけでもクロウにとっては貴重な情報である。


 ――ここでクロウはちょっとばかり余計な欲を掻いた。他国のダンジョン事情に関して、ロイル卿からもう少し訊き出す事はできないか?

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