第二百四十二章 善人(?)たちの夜 13.悪巧みのお誘い(その3)
明けましておめでとうございます。新年初の更新となります。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
パートリッジ卿は一つ頷くと、悪巧みの一端を語ってくれた。
それによると、パートリッジ卿とイラストリア側が密談した結果、問題の出土品については――結論を出すのは時期尚早として――当面秘匿する事に決定された。ただ、何分ノンヒュームの歴史にも関わる事故、連絡会議の方にはイラストリア側から既に一報を入れてあるらしい。それに伴い、エルギン男爵ホルベック卿にもイラストリア側から連絡が行っている可能性はあるが――
「今ここで話されたような事情まで詳しくは知らんじゃろうし、ルーパート君の方から伝えてやってほしいのじゃよ。オットーとは知らぬ仲でもないが、やはりルーパート君の方から伝えた方が、角が立たんじゃろう」
「はぁ……」
ここで話されたような詳細情報は、必要があればホルベック卿から連絡会議に伝えられるだろう。それはホルベック卿の立場を良くする事はあっても、悪くする事はない筈だ。
「まぁ……そういう事であれば」
「頼んだぞ。……で、クロウ君なんじゃが」
「はい?」
パートリッジ卿からすまなそうな表情を向けられては、クロウとしても身構えざるを得ない。況してその後に続けられた台詞が――
「すまぬがクロウ君には一骨折ってほしいのじゃよ」
――であったとなれば尚更である。気のせいか、他の三人からも同情の視線を向けられているような……
「……一骨というのが何かお訊きしても?」
「うむ。……クロウ君も今のシャルドの状況を知っておるじゃろう? じゃとしたら、いずれ古代遺跡の件が明らかになった折に、どんな騒ぎが持ち上がるかも見当が付くじゃろう?」
当面は秘匿の方針が決定しているとは言っても、この手の話はどこからか漏れるのが常である。その時にどんな騒動が巻き起こるかは、封印遺跡の顛末を知っている者であれば想像できる。況してクロウは、国によるその封印遺跡の扱いに、絵師として一枚噛んでいるのである。
「……封印遺跡の時と同じように、今回も出土品のスケッチを描けと?」
「イラストリア側からはそう頼まれておる。本来なら担当者が出向くべきなのじゃが、機密の秘匿を考えて、不肖この儂を介しての依頼となった事は申し訳ない――そう伝えてくれとの事じゃった」
「いえ、それは別に気にしませんが……」
――と言うか、王国軍の軍師殿との面談など願い下げだ。会えないというなら寧ろ重畳、万々歳の次第である。
「おぉそうじゃ。前回と同様に今回も、作者についての情報は伏せてくれるそうじゃ」
「はぁ……」
成る程。会食の席での自己紹介で、クロウが自ら絵師だと明かした事で、この場で依頼する事ができるようになったらしい。然もなくば後日クロウだけが呼び出されて、改めてこの依頼を持ちかけられる事になっていただろう。
前回と同じように今回も、版画の作成と印刷は国の方で行なうという。なのでボルトン工房を関与させる事はできないが――
「代わりと言っては何じゃが、古代遺跡の発掘風景や周辺の景色などは、ボルトン工房の方で売り出しても構わんそうじゃ。そのために便宜を図ってくれるとも言うておる」
「はぁ……」
つまり、その話はクロウの方から工房へ持って行けという事なのだろう。面倒と言えば面倒だが、特段急ぎの仕事がある訳でもない。何より傍から見た場合、絵師が大口の注文を廻してもらっただけだ。否やを言うのもおかしいだろう。それに……
(……古代遺跡の件は俺も気になるしな。そこへの伝手が手に入ると考えれば、俺にとっても悪い話じゃない。何より御前には世話になってるからな)
結論を言えば、クロウはこの話を受ける事にした。
それと同時に、アムルファンの商人ラスコーの事も忠告しておいた方が良いかもしれないと気付く。平素ならいざ知らず、ややこしい出土品の事に携わっている現状を考えると、留意しておくに越した事は無い。
悪人という訳ではないようだが――と前置きしたクロウの忠告に、一同真剣に耳を傾けたのであった。




