第二百四十二章 善人(?)たちの夜 12.悪巧みのお誘い(その2) 【地図あり】
「いや――それについては不肖この儂も、延いてはイラストリア側も危惧しておる。じゃから、最初は儂の方で上手く言い包めておくので、お主には先程も話題に上った〝エルフの美術史を専攻する学者〟を探すようにと献策してもらいたい」
「……マナステラにそんな人材がいるかどうか判りませんが……」
「おるおらんに拘わらず、献策だけはしておくべきじゃろう。マナステラ在住のノンヒュームたちには、連絡会議とやらの方からも話が行くであろうが、じゃからと言ぅてマナステラ王国が手を拱いていい――という訳ではないからの」
「はぁ……」
確かに、人材を探すというポーズだけでも、マナステラの面目を保つ一助にはなるであろう。逆にそれすらしなかったとあっては、マナステラの面目は地に堕ちる事になる。況して、その原因が誰かの報告不備にあったとなると……
「わ、解りました。……参考までにパートリッジ卿がされるという『報告』の内容をお訊きしても?」
「うむ。〝エルフと人族が太古から交流していた〟などとは、現時点では断定できぬ。これは学者としての儂の意見でもある」
マーベリック卿の方をチラ見すると、こちらも同意を示すかのように頷いている。してみると、これは学者としても真っ当な見解・態度であるらしい。
「じゃによって報告内容は、〝出土品の特徴からは、両者に交流のあった可能性が示唆される〟――という曖昧な言い回しに終始するつもりじゃ」
「……それだけでも充分にヒートアップすると思いますが……」
「そこでシャルドの位置関係が物を言う事になる。何せ彼の地の東には、『神々の東回廊』と呼ばれる深い山林が横たわっておる。そしてその山林は、マナステラにもその末端を延ばしておる」
「あぁ……成る程」
実際にはマナステラよりもモルファンに接する範囲が大きいが、そこは華麗にスルーするマナステラ出身者の二人。
「……つまり……我が国でも同じような遺跡が発見される可能性が……無くもない……と?」
「実際に可能性はあるじゃろうよ。遺憾ながらマナステラは、遺跡の発掘になど関心を向けておらんからの」
ここで「祖国」という名詞を使わず、頑ななまでに「マナステラ」呼ばわりする辺りに、パートリッジ卿の鬱憤が見え隠れしている。ただ――それでも言っている内容は事実であった。……まぁこのご時世に、国が考古学的発掘をバックアップする事の方が稀なのであるが。ちなみにシャルドの古代遺跡はイラストリア王国が発掘調査を主導したが、これは黄金製品が纏まって出土したためであって、寧ろ例外的なケースに属する。
余談はともかくとして、マナステラではそういった発掘調査がほとんど為されていない現状に鑑みると、重要な遺跡が未発掘のまま眠っている可能性も無視できない。
マナステラ上層部の愚物どもなら〝直ちに発掘を!〟と、声高らかに喚くかもしれないが、それより先にシャルドの調査に一枚噛むのが本筋であろう。
「つまり……私が行なうという『提言』は、それを踏まえたものになる訳ですね?」
「そういう事になるの」
途方に暮れたように溜息を吐きつつも、ロイル卿はこの提案を受け容れた。受け容れるより他にどうしようもないではないか。
祖国を手玉に取る陰謀の一端を担がされているような気になるが、ロイル卿自身がやるべき事はどこから見ても真っ当な行為で、誰からも非難される謂われは無い。
いや――それを言うならパートリッジ卿がやる事にも、どこにも批判される部分は無い。こっちで判明した事実を伝えるだけ。……ただ、その伝え方に一工夫しているだけである。
「ふむ……次に、ルーパート君にお願いなんじゃが……」
「ぼ、僕ですか?」
思いがけない陰謀に巻き込まれそうな気になって、少しばかり浮ついた声が出たが……ルパへの依頼も実に真っ当なものであった。
「父にこの件を伝えてほしい……ですか」
「うむ」
これにて本年の更新は終了となります。新年は五日から更新再開の予定です。
それでは、良いお年を。




