第二百四十二章 善人(?)たちの夜 10.風発する談論~出土品厄介話~(その3)
大昔の伏線の回収回です。
(……あの短剣……まるで……)
クロウが先程から――親の仇か何かのように――凝視している短剣の像は、他ならぬクロウの視覚を介して、懐中に潜むライとキーンにも届いていたらしい。
(『マスター……あれって……』)
(『前にシャルドの空き家でぇ、見つけたものにぃ、似てますねぇ』)
(『そう……だな』)
あろう事か件の短剣は、嘗てクロウがシャルドの廃屋地下で発見した盗掘品、その中にあった短剣と瓜二つの形状をしていた。
短剣以外の盗掘品のデザインが発掘報告書に掲載されていた出土品と似ていたため、頭からシャルドの出土品と決め付けて、それ以上の追求をしなかったのだが……改めて見ればデザインに幾許かの違いがあった。それに気付かなかったのは痛恨の極みではあるが……しかし仮に、気付いていたところでどうだったかと問われれば……
(……隠匿する方針に変わりは無かっただろうから、結果としては同じか。もし早々に御前に提出していたら……面倒が前倒しになっただけだろうしな)
寧ろ、際どいところで面倒を巧く回避していたのかもしれない。……少なくとも、そう考えた方が気分的には楽である。
奇に綾なす因果の網に、思わず遠い目で黙り込むクロウ。それが不自然に見えないのは、隣のルパも同じような表情を浮かべているからである。尤もこちらの方は、パートリッジ卿たちの話す内容が毫も理解できないから――という理由からであったが。
クロウとルパの反応はともあれ、三者の熱い会談は続く。
「つまり……イラストリアでは、太古から人とエルフが交流・協力していたという事ですか?」
懸念の色も露わに食い付いたのはロイル卿である。この内容を祖国が知った日には、一体どういう反応をする事か。
「その懸念があったので、これについてはまだ明らかにしておらんのじゃよ」
マナステラ出身のパートリッジ卿の目には、その可能性は掌を指すが如くに明らかであったらしい。なので密かにイラストリア当局にお伺いを立てたところ、当面は秘匿しておくようにとの指示が下ったのだという。
イラストリアとマナステラ、一体どっちが祖国なのかと問い詰めたくなるロイル卿ではあったが、パートリッジ卿の懸念についても理解も同意も共感もできるので、敢えて沈黙を守る事にする。とは言うものの……
「このままずっと黙りを決め込む訳にもいかんだろう」
――というマーベリック卿の指摘にも大いに頷ける。
尤も、この件についてはパートリッジ卿も同意見であったらしく、
「じゃからこそ、この場で諸君にお披露目した訳じゃよ」
ニンマリと笑うパートリッジ卿を見た一同、その心中は綺麗にハモっていた。
((((共犯に巻き込むつもりだ――!))))
「なに、心配せんでもそこまで面倒な事を頼むつもりは無い]
――好々爺然とした笑顔でそう言い切るパートリッジ卿であったが、他四名の目には深い疑念の色が浮かんでいる。……〝面倒でない〟というのは誰基準だ?
「まずな、エイブ、お主に頼みたいのは運搬じゃ」
「運搬……だと?」




