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第二百四十二章 善人(?)たちの夜 9.風発する談論~出土品厄介話~(その2)

 反論しかけたロイル卿であったが、その途中で自分の意見のおかしさに気付いたようだ。


 問題の短剣とブローチは、他の宝飾品(アクセサリー)と一緒の部屋に収蔵してあった筈。

 なのに――他の宝飾品(アクセサリー)には宝石がちゃんと残っていて、短剣とブローチだけ宝石が欠落している? 未完成品なのか損傷品なのかは判らぬが、傷物と完品を同じように収納していたというのは()に落ちない。

 だとすると……収納した時点ではちゃんと宝石が(はま)っていたのが、収納中に抜き取られた?



(いや……何でそんな手間を掛ける必要があるんだ?)



 短剣にしてもブローチにしても、別段(かさ)()るものではない。宝石ごとそのまま持ち去ればいい筈だし、他のお宝を放って置くというのも()(てん)がゆかぬ。

 そうすると、残された可能性というのは……



(人為的に抜き取られたのでないとすると……収納中に自然に消え去った?)



 それだけ聞けば論外な結論と思えるが……実はちゃんとした落としどころが一つだけある。――魔石である。


 高品質な魔石は宝石と並べても(そん)(しょく)の無い美しさを誇るし、魔術的な効果を期待する護符などには、魔石を配したものも珍しくない。魔道具などは言わずもがな。

 そして――魔力を完全に使い切った魔石は、融けるように消え去る事もあるという。


 常時発動型の効果を付与した護符や魔道具では、当然魔石は消耗するし、常時発動でなくとも即時の発動を期した魔道具では、待機用に微量の魔力を消費するものもある。

 なのでこういった護符なり魔道具なりであれば、前述のように〝(はま)っていた魔石が消失した〟状態になっていてもおかしくはない。

 ただ……



(……確かシャルドの「封印遺跡」の年代が、(およ)そ六百年から七百年前だと聞いた。「古代遺跡」はそれより更に古い時代のものの筈……千年以上前であってもおかしくない。しかし……魔石を魔道具として用いる技術は、そこまで古いものだったか……?)



 ここは何しろ〝剣と魔法の世界〟であるから、人族たちの間でも、魔力と原始的な魔術自体は太古の昔から存在していた。

 しかし、それら強力な魔術は高位の者が独占していた――と言うか、強力な魔術を行使できる者が高い地位に就いていた――筈。


 (ひるがえ)って魔道具というのは、〝弱い魔力しか持たないか、もしくは魔術的適性の異なる者が、所定の魔術を行使できるようにするための道具〟であった筈。言い換えると、〝高位でない者〟が魔力を使う事を前提にしている。

 ヒト族たちの間で魔術がそこまで普及したのは、ずっと後になってから……少なくとも千年以上前の時代ではなかった筈だ。


 魔力と魔術に()けるエルフであるなら、そういった魔道具も作り得たかもしれないが、今度は別の疑問点が浮かび上がってくる。

 すなわち――魔力と魔術に()けるエルフなら、魔道具になぞ頼らずとも、自前で魔法を使えた筈。〝魔力を持たない者〟のための魔道具など、作成する理由が無いではないか。


 そうであるなら、ここに厳然と存在しているこれらの魔道具は……



(……弱い魔力しか持たない人族の、言い換えると人族の庶民のために、エルフたちが態々(わざわざ)これらの魔道具を作成したというのか……?) 



 混乱するロイル卿に追い討ちをかけるように、パートリッジ卿の言葉が続く。



(わし)がマナステラにおった頃の知り合いであるエルフの商人に、固く口止めした後で、スケッチだけを見てもらったのじゃがの……これらのデザインは、古臭くはあるが紛れも無く、エルフたちの間で使われておったものらしい。魔石のあしらい方――と言うか、魔道具としての設計の仕方も(しか)りである(よし)じゃ」

「これらが(いず)れも金属製であるという事実に(かんが)みれば、直接に加工したのがエルフだとは思いにくい。となれば……エルフの指導の(もと)に、人族の職人が作り上げたと? しかも……それが千年以上前の事だと?」



 (しか)めっ(つら)()(ただ)すマーベリック卿を面白げに一瞥(いちべつ)して、パートリッジ卿は言葉を続ける。



「さて、の。当時のエルフたちがデザインの指導をしたのかもしれんし、逆にエルフたちは魔道具作製の指導をしただけで、人族のデザインをエルフたちが受け継いだのかもしれん。その辺りは判らぬが、確かな事は……」

「……当時のエルフと人が親しく交流しており、恐らくは緊密な協力態勢にもあったという事……それも、『封印遺跡』が示すより更に古い時代から――か」

「ふむ……あちらの遺跡にも、人族とエルフの協力を示唆する痕跡があったのう」



 その「封印遺跡」は、実際にはクロウたちが作り上げた一大贋物(フェイク)であったのだが……あろう事か運命は、ペテン師を自認していた筈のクロウに予言者の役目を負わせたらしい。運命の神とやらがいるのなら、さぞや性格の悪い神なのであろう。その一点ではクロウと通じるところがあるかもしれない。


 だが……そのクロウが言葉も無く立ち尽くしているのは、上記の議論がショックだったからではない(・・)

 そうではなくて……


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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも更新ありがとうございます [一言] もしや例の無茶ぶりが・・・
[良い点] きれいにつながっていくぅ!
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