第二百四十二章 善人(?)たちの夜 8.風発する談論~出土品厄介話~(その1)
あのパートリッジ卿が如何にも勿体ぶった様子でそう言うところを見ると、お披露目の品はシャルド古代遺跡の出土品、それも王立講学院の学院長たるマーベリック卿をして〝看過できぬ代物〟と言わしめたアレに違い無い。はてさて、其は如何なるものぞ。
――と、全員の視線と注意を引き付けたのを感じとって満足したらしいパートリッジ卿は、勿体ぶった様子を更に強めつつも、徐に覆いの布を取った。
露わにされた「出土品」の数々を目にした参加者が、一様におおっと響いた。
「運好く今回の発掘では、未盗掘の部屋を掘り当てる事ができた。そこから得られた品は幾つかあるのじゃが……その中でも、些か物議を醸しかねんものがここに集められておる」
不安と期待を煽るパートリッジ卿の台詞を聞いて、一同の視線が出土品に吸い寄せられる。
並べられているのは、黄金造りと見える酒杯に、装飾を施された短剣に、身に着けるような小型の宝飾品か? 確かに見映えのするものが集められているようだが……?
「……オールド・ビル、そこまで問題があるような品には見えませんが?」
戸惑ったようなロイル卿の台詞こそが、一般人の感想を端的に代弁していよう。
だが、マーベリック卿はまた別の視点で、これらの品々を見ていたようだ。
「酒杯に短剣に宝飾品か。『問題』とやらがこれら全てに共通するものだとすると……素材か、或いはデザインか?」
学者らしい視点からの意見を述べたマーベリック卿を、思わず振り返るロイル卿。直ぐに視線を出土品に戻したが、
「……素材はそれぞれ違っているようだし……デザインにしたところで……」
今様とは違って古臭いデザインではあるが、しかし、骨董品には割と能く見られるデザインではないか? 強いて言えば〝エルフっぽい〟デザイン……
「……いや? エルフ?」
ここで初めてロイル卿は違和感を覚えたようだ。
あの「古代遺跡」は、人族の遺跡ではなかったのか?
「それは間違い無いの」
「では……これらはエルフが持ち込んだものだと?」
それはつまり、この遺跡に住まっていた人族は、エルフと交流があったという事になる。学問的には重要かもしれぬが、〝物議を醸す〟と言われるほどでは……?
「いや……これらにはもう一つの共通点がある。全てが金属製だ」
「だからそれが……金属……?」
マーベリック卿の指摘に再び戸惑ったようなロイル卿であったが、何か思い当たる節があったと見えて、その視線を「短剣」の方へと向ける。装飾された鞘は木製の塗り物のようだが……?
その視線に答えるかのように一つ頷いたパートリッジ卿が、徐にその短剣を鞘から引き抜いた。
現れた刀身は紛れも無く金属製――恐らくは鉄製――であり、その刀身にも何やら紋様っぽいものが刻まれている。
「見てのとおり刀身は金属製じゃ。という事は、加工自体はエルフによるものではないと考えられる。彼らは金属と相性が悪いからの」
――〝エルフは金属と相性が悪い〟――
この一言が問題の全てを言い表していよう。
エルフは金属器――特に鉄器――と相性が悪い筈なのに、これらの「金属」製品には「エルフっぽい」装飾が施されている。
という事は……
「……これらを作った者は人族で、エルフのデザインに通暁していたと?」
〝エルフのデザインに通暁した職人〟を生み出すほど、そして、「エルフ風のデザイン」がヒト族に順当に受け容れられるほど、当時は人とエルフの交流が活発だったという事か。
……それは確かにマナステラが何か言ってきそうな……
「いや。そこでこの短剣と、こっちのブローチを見てもらいたい。何かが嵌っていたような窪みがあるじゃろう?」
「それは……宝石が嵌め込んであったのではないのですか? それが抜き取られただけ……うん……?」




