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第二百四十一章 錯綜する縁(えにし) 9.出迎える者たち(その1)

 さて、少しばかり時計の針を巻き戻して……カールシン卿のバンクス到着に先んじる事二日、パートリッジ卿の(もと)を訪れたロイル卿が真っ先に行なったのは……そのパートリッジ卿に対する平謝りであった。



「まぁ、そう気にせんでもよい。どうせ本国の馬鹿どもが、又候(またぞろ)もって無理を吹っかけてきたのじゃろう」

「はぁ……無理と言いますか何と言いますか……どうにも真意の掴みかねる書面でして。……卿の許に何か情報が入っていないかと、それもあってお邪魔した次第です」



 恐縮したロイル卿から問題の書状を見せてもらったが、成る程、確かに()く解らない文面であった。〝言語明瞭、意味不明〟とは、こういう場合に使うのだろうと、心底納得できるくらいに。



「……馬鹿どもの思惑(おもわく)は放って置くとして……留学のための下地作り?」



 〝留学〟という言葉でまず思い出すのは、来年にイラストリアに留学してくるというモルファンの王女の事であるが……



「……王女の年回りは存じませんが……それを狙っての事でしょうか? モルファンとの(よしみ)を通じよと?」

「だとしたら下司(げす)にも程がある話じゃがな。子供を(もっ)て子供を籠絡(ろうらく)させようなどと……いや、じゃとしたら何もお主のところの次男坊と、名指しで言うてくる筈が無い」

「それは確かに……すると、モルファンの件はこれとは無関係でしょうか?」

(あなが)ちそうとも言い切れんのが悩ましいところじゃが……ふむ? ……待てよ?」



 ――と、ここで(ようや)くパートリッジ卿は、少し前に本国へ送った情報の事を思い出した。()(かつ)なように思えるかもしれないが、何しろクリーヴァー公爵家の件で本国を見限って以来、〝マナステラの国益〟などというものは、パートリッジ卿の脳内では(ちり)(あくた)も同然の扱いを受けている。故国に残してきた息子の立場もあるため、時折情報を流してやっているだけ……というのがパートリッジ卿の認識であった。



「何か……?」

「いや……その前に、お主のところの次男坊と『留学』という単語から、何か思い当たる事はあるかの?」

「二番目の(せがれ)と『留学』……さて、あいつが興味を持っているのは、各地の文化の比較研究だとか言っておりましたが……」

「ふむ……ならば、やはりあの件か……」



 ここに至ってパートリッジ卿は、(かつ)てマナステラ本国へ送った情報の事をロイル卿に明かす事にした。――モルファンがノンヒュームの文化や習俗に興味があると通知してきた事、それを受けてイラストリアがノンヒュームの講師陣拡充に動いている事などを。



「……それでうちの(せがれ)に白羽の矢が立ったという訳ですか……」



 文面を見る限り、本国の方では既定の方針らしいのが気になっていたのだが……



「恐らくは、他に打つべき手が無いというのが本当のところじゃろうな」



 そこはパートリッジ卿も、元はマナステラの貴族であるから、マナステラの国内に〝ノンヒュームの文化や習俗に詳しい〟人材がいない事など承知している。

 何しろあの国は、ノンヒュームとの融和を優先し過ぎた結果、彼らの文化や風習を詮索するのは好ましくないという気運が醸成され、その方面の研究者が育っていない――という呆れた為体(ていたらく)なのである。



「ノンヒュームとの融和を国是として(うた)っておきながら、そのノンヒュームの文化に詳しい者がおらんというのじゃから、底の浅さが知れようというもんじゃ。相互理解のためには、相手の文化や風習などを理解しておく事こそ肝要であろうにの」

「はぁ……」



 現役のマナステラ貴族であるロイル卿としては、母国中枢部の無能・無定見・無思慮をそうそう(あげつら)う訳にもいかない。なので煮え切らない言葉を返すに留めたのだが……内心では大いに(うなず)けるところがあった。大体、外務閥でもない自分が、何でこんな畑違いの面倒に巻き込まれなくてはならないのか。



「正確に言えば、巻き込まれたのはお主の次男坊なんじゃが……下手をすればお主自身にも(とばっち)りが及ぶやもしれんな」

「勘弁して下さいよ、オールド・ビル……」


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