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第二百四十一章 錯綜する縁(えにし) 6.イスラファン商人たちの困惑

 名立(なだ)たる面々がバンクスで縁の結び合い絡ませ合いを演じている頃、少し離れた場所でも奇妙な――或る意味で皮肉な動きが見られた。舞台はイスラファンとエルギンである。


 イスラファンの商人の一部――()(てい)に言えばザイフェルやラージンと距離を置こうとする一派――が、〝ノンヒュームがモルファンと新型船の事で取引を持った〟と誤解している件については既に紹介したが、その連中が又候(またぞろ)おかしな誤解をしでかしたところから、この喜劇の幕が開く。



・・・・・・・・



「モルファンの特使がバンクス(・・・・)を訪れている? ……エルギン(・・・・)ではなくてか?」



 イスラファンの商都ヤシュリクの一画で困惑の声を上げているのは、先に述べた非主流派イスラファン商人の一人である。



「ラスコーが商業ギルドに連絡してきたそうだ。実際に会ったというのだから間違いはあるまい」

「あのラスコーの事だ、当然裏は取っているのだろう?」

「『幻の革』を扱う店に確認したそうだ。イラストリアの高官からの紹介状を持っていたそうで、その紹介状が本物なのは、店の主が既に確認したとの事だ」

「……なら間違いは無いか」

「しかし……予想とは(いささ)か違う展開になってきたな?」



 彼らが当惑している理由は何かと言うと……モルファンの特使がイラストリアを訪れたという一件の解釈にある。


 公式発表に拠れば特使の来訪は〝来年の王女留学のための下準備〟であり、少し()(はし)()く者の推測では〝ノンヒュームとの交流の下地作り〟である。

 ただ……ここに(つど)う商人たちは、それ以外にもう一つの可能性を想定していた。――ノンヒュームからモルファンへの新型船の技術提供と、それに関わる取引である。どういう事かと言うと……



 ・イスラファンの町シュライフェンから一人の船大工――アンシーンと同タイプのクリッパー船を建造しようと四苦八苦していたらしい――が姿を消した。


 ・それと前後して、モルファンがイラストリア――ノンヒュームたちの活動拠点――に特使を派遣した。


 ・沿岸国の盟主たるモルファンにとって、ノンヒュームの持つ先進的な建艦技術――そんなものは無い――は脅威であると同時に、喉から手が出るほどに欲しいものの筈。


 ・その技術提供の話がノンヒュームからモルファンに持ちかけられ、ノンヒュームに強気に出られる事を懸念したモルファンが自前でも技術を入手しようと考えて、前述の船大工を確保した……というのは、充分にあり得る。



 ……という、事実と誤解が見事に錯綜した推論を構築していたのが、ここに集まってる商人たちであり、そんな彼らの視点から見れば、



「モルファンの特使殿がイラストリアの王都から姿を消したと聞いて、てっきりエルギンの事務局に向かったと思ったのだがな……」



 先述の予断の(もと)にカールシン卿の失踪(笑)を眺めれば、これはエルギンにあるノンヒュームの本部を密かに訪ねたのに違いない……という誤解が生まれるのも無理はない。てっきりそうだと思い込んだ彼らは、密かに商業ギルドに働きかけて、エルギンに滞在しているイスラファン商人に注意を呼びかけていた。それが可能であったのは、このところイラストリアへ行く商人には、商業ギルドから通話の魔道具が貸し出されているからなのだが……まぁこれは余談である。

 ともあれ、そうまでしてエルギンに監視の網を張っていたにも(かか)わらず、(くだん)の特使カールシン卿は、いっかなエルギンに現れない。はてねと首を(かし)げていたところに、ラスコーからの一報が入ったという次第なのであった。


 ちなみにラスコーがイスラファンの商業ギルドに連絡を入れたのは、イラストリア訪問の際に便宜を図ってもらった事への謝礼代わりであり、当然同じ内容がアムルファンの商業ギルドにも伝えられている。或る意味で個人情報の曝露に当たりそうだが、モルファンの特使というからにはその身分は公人であり、プライバシーをどうこう言える立場ではないと考えたのか……或いは先日の意趣返しであったのか、詳細については不明である。



「しかしバンクスとは……どういうつもりだ?」

「……バンクスの新年祭には、ノンヒュームたちも各地から集まる筈だ。紛れ込むには丁度好いと考えたのかもしれん」

「特使殿のバンクス訪問は、新年祭の見学のためという訳か……成る程、話の辻褄(つじつま)は合わせられるな」

「出遅れた形だが、バンクスにいる同朋(どうほう)にも協力を呼びかけた方が良いか?」

「エルギンという予測を外した時点で、我々の評価は下がっているだろうからなぁ……商業ギルドが動いてくれるかどうか」

「仮に動いてくれるとしても、ギルドからの評価は厳しいものになるだろうな」

「いや……どのみちバンクスに向かった仲間は少なくない筈。そこへモルファンの特使というネタが投げ込まれれば、放って置いても血眼になるだろう。敢えてこちらから献策する必要は無いのではないか?」



 ふぅむと話が(まと)まりそうになったところで、一人の商人が爆弾を放り込んだ。

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