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第二百四十一章 錯綜する縁(えにし) 5.二人の情報通(その2)

 表向きは人の好い笑みを浮かべつつも内心では警戒を深めるラスコーであったが、相手も事を不穏にする気は無いものとみえて、一応は声をかけた理由についての説明もあった。「幻の革」欲しさにパーリブの店を訪れたところ、そこで偶々(たまたま)自分の事が話題に出たのだという。

 一応は筋の通った説明に思えるが、話を聞いたカールシン卿がなぜ(・・)ラスコーに興味を持ったのかという――或る意味で最も重要な――点については、依然曖昧なままである。ただ、カールシン卿からはそれ以上追及するなとの暗黙の威圧が放たれている。ラスコーの心情的にはマウントを取られた形である。


 話術や訊き込み・訊き出しの技術ならラスコーも引けは取らないが、身分や立場という点を持ち出されると分が悪い。反対尋問は諦めるしか無かった。


 ただしそのカールシン卿としても、友誼を求めて訪れたイラストリアの国内で、()してノンヒュームの活動拠点でもあるバンクスで、他国の商人と揉めるような真似はできない。



(今回は、このラスコーという商人の為人(ひととなり)を見極める程度だな……)



 生憎(あいにく)と本国へ照会する前に出会ってしまったため、このラスコーという商人の立ち位置が不明である。軽々に友誼を深めるような真似はできないが、()りとて(いたずら)に向こうの(てき)(がい)(しん)や不安を煽るような真似もできない。少なくとも表面的には、当たり障りの無い会話を交わしておくしか無いだろう。


 パーリブの店における振る舞いは、この男が平素から情報を重視している事を、そしてその遣り取りを生業(なりわい)としている可能性を窺わせる。ならば探りを入れてみる手もあるが……



(……いや、やはり()めておこう。何かの情報を要求するという事は、その情報を欲しているという情報を相手に与える事に他ならない。今はまだ軽率な振る舞いは控えた方が良いだろう)



 ……などという思惑(おもわく)が交錯する中で、カールシン卿とラスコーの二人が――表面的には――(にこ)やかに斬り結んでいる間、ボリス・ジャンス・ニコフの三人は礼儀正しく脇へ下がって、時折相槌(あいづち)を打つに留めていた。

 こういう高度なHA・NA・SHI・A・Iは上級者の仕事。凡人は余計な(やぶ)(つつ)かないのが一番です。


 そんな思惑(おもわく)から繰り広げられていた〝当たり障りの無い〟会話であったが、その中で扱われた小さなネタが、事態を小揺(こゆ)るぎさせる事になった。何の話かと言えば、シュレクのダンジョン村でテオドラム兵がやらかした一件である。


 素よりこの話は、エルギンを起点として今や国内各地に広まっており、ボリスやジャンスも耳にしている。そして、ノーランドからシャルドまでの道中を彼らと共にしたカールシン卿――と、ハンスやカイトたち――も、旅の()(りょう)の慰め草としてこの話を聞かされている。ちなみに、話を持ち出したラスコーの方はと言えば、先に訪れたエルギンの町で、この噂を訊き込んでいた。


 では、そんな先刻承知の話を聞かされたカールシン卿が、なぜこの話に興味を抱いたのかと言うと、それは話を持ち出したのがラスコーであったという一点に尽きる。



(……この男はアムルファンの商人だと言っていたな? 確かアムルファンは、一応テオドラムの交易相手であった筈。贋金貨の一件があってからは、その関係も冷えてきたという話だが……だとしても、アムルファンの商人がこの噂を広めているというのはどういう訳だ? ……アムルファンの商人はテオドラムを完全に見切ったのか?)



 沿岸国の盟主を自認しているモルファンとしては、看過できない情報である。恐らくは別の者が別の筋からこの情報の如何(いかん)を確認しているだろうが、情報源は幾らあっても困る事は――基本的には――無い。

 この件は本国へ報告しておくとしよう……



 その一方で、ラスコーはラスコーで別の考えを巡らせていた。



(……シュレクの話を聞いた途端に、(わず)かに表情が揺らいだな? モルファンはテオドラムに関心を抱いているという事か? ……いや、モルファンはノンヒュームと友誼を結ぶのにご執心していると聞いた。……となれば、ノンヒュームが敵視しているというテオドラムの事も、無関心ではいられないという訳か……)


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