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第二百四十一章 錯綜する縁(えにし) 4.二人の情報通(その1)

 第二の転機はその翌日、カールシン卿たちがバンクスの町で昼食を摂ろうとしている時に訪れた。カールシン卿の従者ニコフが、()(ざと)くもその人物に気付いたのである。



(「ご主人……あれを」)

(「む? あの風体(ふうてい)はひょっとして……?」)

(「昨日の店で聞いた、沿岸国の商人ってやつじゃありませんかね?」)

(「店主の言っていた人相書きには()()まるね」)



 屋台で買い込んだらしきパンと串焼きを抱えて食事の場を探していた、アムルファンの商人ラスコーの姿であった。



(しまったな……昨日の今日の事で、まだ本国に照会していないんだが……)



 昨日パーリブからラスコーという商人の事を聞き出し、そう遠くないうちに本国へ連絡しておこうと思っていたのだが……まさかその翌日に、当のラスコーに()(くわ)すとは思わなかった。幸い向こうはこっちに気付いていないようだし、ここは一旦退()いて出直すという手もあるのだが……



(……そうすると、次はいつ出会えるか……)



 名高いバンクスの新年祭を前に町を去るとは考えにくいが、この混雑の中で次にいつ出会えるかとなると、カールシン卿にも確信は持てない。再会の機に恵まれないまま、双方がバンクスを去るという事もあり得るのだ。



(……神が与え(たも)うた折角の好機、無にする事も無いか)



 ――という判断の(もと)、カールシン卿はラスコーに接触する事を決める。

 なに、声をかける口実など何とでもなる。



「失礼だが、アムルファンからおいでのラスコー殿で間違い無いかな?」



 いきなり名指しで声をかけられたラスコーは驚いたが、芋蔓式に人脈を拡げていると、(たま)にはこういう事もある。なので()(ほど)に驚いた顔もせず、カールシン卿の方に向き直った。



「そうですが……貴方は?」



 ――何者か? という質問と、

 ――なぜ自分の事を? という質問と、

 ――どうして自分に声をかけたのか? という質問を重ねて問いかけたが、返って来た答はそのうち一つだけを満たすものだった。



「自分はモルファンで貴族の末席を汚しているヴィルコート・カールシンという者だ。一応カールシン侯爵家の三男でね、ここへはモルファンの特使としてやって来ている」

「は――それは失礼を」



 慌てて態度を()(つくろ)うラスコー。どこの国の貴族だろうと、一介の商人が礼を失した振る舞いなどすれば、下手をすれば命に関わる。面倒な相手は敬して遠ざけたいのがラスコーの本音である。その点に限れば、クロウともウマが合うかもしれない。


 ともあれ名告(なの)ってくれたお蔭で、相手の名前と身分は判った。判らないのは……



(さて……どこの伝手(つて)で自分の事を知り、何の目的で声をかけた?)



 だが、相手はそれを明かしてくれる気は無いようだ。意図的に(とぼ)けているのか、それともそこまで気が回らないのか、表情から察するのは難しい。



(……という事は、恐らく前者か? だが、何のために?)



 なまじ身分に差があるだけに、こちらから下手な探りを入れるのも(はばか)られる。

 ――つまり、会話の主導権は相手に握られた。


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